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インド

汚職が1日8000人を殺す国

蔓延する役人の公金横領を撲滅するためインド政府はさまざまな取り組みを続けているが、汚職撲滅への道は遠く険しい

2009年10月16日(金)16時44分
ジェーソン・オーバードーフ(ニューデリー支局)

役人天国 シン首相は根深い汚職をなくすことができるか B Mathur-Reuters

 蔓延する汚職によって、インドでは間接的に1日8000人が殺されている――専門家がこう試算するのは、インドの役人が食料支援のための援助金を横領するから。インド政府は今、新しい方法でこういった汚職を減らそうとしている。福祉事業にかかる予算額を査定する代わりに、法律をうまく使って雇用、教育、食料支援の分野で政府機関の正しいサービスを保証するやり方だ。

コンセプト

 この手法の中心になるのは、05年に施行された農村雇用保障法(NREGA)。NREGAは貧困ライン以下の農村世帯に100日間の雇用を保証し、もし給与が途中で横領されれば政府が補填しなければならない。「政府は公共福祉事業における横領に対し、かつてない懸念を示している」と、この法律の策定に関わった経済学者のジーン・ドレーズは言う。

現状

 楽観視できない。もちろん政府は、福祉受益者の銀行口座を作って直接お金を支払ったり、役人が架空の受領者に成りすますのを防ぐためウェブカメラやICカードを導入する、といった方法で汚職撲滅に力を注いでいる。それでも不正は相変わらずはびこっている。

 最近の調査によると、主要地域ではNREGA資金の40%が横領され、07年以降何百件もの苦情が放置されたままになっている。最もひどいのは、選挙で選ばれた村の役職者がNREGA資金の大半を自分の懐に入れていたケース。権力分散によって権力の相互監視が強まる、という希望が打ち砕かれてしまった。

 汚職防止に取り組んでいる人たちもいる。だが中央政府と26の州政府を相手取って訴訟を起こしたパーシュラム・レイによれば、NREGAの施行状況を監視するための監査はほとんど行われていない。苦情申し立ては「非効率的で延々と続く手続き」によって事実上放置されていると、レイの訴状には記載されている。「罪を犯した役人の起訴にいたるのはきわめてまれだ」

結論

 マンモハン・シン首相の人権重視の法制度では、機能不全を起こしたインドの官僚制度は変わらない。変えるためには、インドにとって何よりも重要な改革――法律を公正かつ迅速に執行する裁判制度づくり――を成功させねばならない。

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