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イスラエル右旋回のシナリオ

右派連立政権樹立をめざすネタニヤフとリーベルマンに和平への課題を聞く

2009年6月15日(月)15時22分

■リクード党首 ベンヤミン・ネタニヤフ

 2月20日、イスラエルのシモン・ペレス大統領は第2党の右派リクード党首ベンヤミン・ネタニヤフ元首相に組閣を要請した。当初は挙国一致内閣をめざしたネタニヤフだが、中道政党で第1党のカディマとの連立交渉は不調に終わり、右派連合による政権樹立以外に道は残されていないようだ。

 本誌ラリー・ウェーマスがネタニヤフに話を聞いた。組閣要請を受けて以降、ネタニヤフが外国メディアのインタビューを受けるのはこれが初めてだ。
         *

──ペレス大統領は、あなたが96年に首相だったときよりも成長したと考えているそうだ。自分でも変わったと思うか。

 そう思いたい。年月が経過するなかで人は自分や他人の経験について見つめ直すことができる。私はどんな政権や首相、政策が成功を収めてきたかじっくり観察するとともに、より良い未来へイスラエルを導くために政策やリーダーシップはどうあるべきか学び取ろうと努めてきた。

──07年のアナポリス会議に始まった和平交渉は続けるつもりか。

 イスラエルの国際的な義務に矛盾しない方法で政治的交渉を続けたい。選択肢は三つある。一つは従来どおり、即時の最終合意をめざしてトップダウン方式で交渉を行うやり方だが、これまで何度も失敗してきた。イスラエル政府が求める最低限の譲歩を実現できるような交渉当事者がパレスチナ側にいないせいだ。

 第二の道は何もしないこと。私が提案したいのは第三の道だ。政治的交渉を継続すると同時に(パレスチナの)経済発展と治安部隊の強化を推進する。パレスチナ自治区ヨルダン川西岸の経済のニーズに応えるための委員会設置と運営にも、自ら取り組むつもりだ。

──しかし経済的な発展は政治的な前進の代わりにはなりえない。

 それはそうだが、北アイルランド紛争で和平に向けて大きく道を開いたのは経済発展だった。

──パレスチナ人国家とユダヤ人国家の「2国家共存案」に賛成かと聞かれたら、どう答えるか。

 最終的な和平合意は、パレスチナ人によるパレスチナ人統治を可能にするものでなければならないと考えている。ただしイスラエルの脅威になるような権限を与えるわけにはいかない。

 たとえばイスラエルに戦車を送り込んだり、砲撃できるような軍隊をパレスチナはもつべきではないというのが、イスラエル国内での共通認識だ。イランと軍事協定を結んだり、イスラエルの都市を攻撃するロケット砲を輸入したりできないようにする必要もある。

──今回のガザ進攻は手ぬるく、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスは打倒すべきだとあなたは語ったが、あれは本心か。

 イスラエルを地上から消し去るためのイランの前線基地のような存在(ハマスのこと)は和平のためにならない。

──ハマスをどうするつもりか。

 ガザ地区のパレスチナ人には(ハマス主導の)現体制を変えるすべを見つけ出してもらいたい。われわれはすべてのパレスチナ人との和平を望んでいる。

 今のわれわれにとっては、人道援助がきちんとガザに届くようにすることが課題だ。ただし援助がハマスのロケット砲購入に転用できないようにしなくてはならない。

──挙国一致内閣を樹立したいと考えているのか。

 もちろん。総選挙の期間中もその後も、私はそう言ってきた。

──第1党のカディマのツィピ・リブニ党首がその希望の前に立ちはだかったということか。

 彼女の気が変わるのを期待していたのだが。

──オバマ新政権は前政権ほどイスラエルに友好的ではないかもしれない。その点はどう思うか。

 それは問題ではない。バラク・オバマ大統領とはこれまで2度話をしたが、とても有意義な会談だった。彼は新しい考え方を進んで受け入れられる人だ。核兵器保有に向けたイランの動きを認められないことは彼も理解していると思うし、実際に私にもそう語った。

──武力行使抜きでイランの核開発計画を止められると思うか。

 イランの現政権は圧力に弱く、今後も圧力を強めていくことが必要だと思う。だがイラン側が武力行使はありえないと考えるようなら、経済制裁をはじめとする手段はそれほど効果を発揮しないのではないか。

──オバマ大統領はイランとの対話を再開しようとしているが、考えが甘いと思うか。

 昨年7月にエルサレムで大統領と会談した際、私はイランをどう扱うかという方法論よりも(イラン問題で)何をめざすかが重要だと話した。イランに核兵器をもたせないことが目標であるべきだと、彼ははっきりと述べた。

──前回首相だったとき、あなたは非常に若かった。今回は違った政権運営をするつもりか。

 当時は46歳で年齢的にも経験という意味でも未熟だった。それまで閣僚経験さえなかったのだから。(ほかの人には)おすすめしない。

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