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経済制裁に潜む皮肉なパラドックス

北朝鮮への制裁をにらむ中国と、イスラエルへの制裁に傾くアメリカ

2009年6月1日(月)18時56分
ダニエル・ドレズナー(米タフツ大学フレッチャー法律外交大学院教授)

高まる緊張 中国は北朝鮮への制裁に合意するのか(中朝国境の丹東を警備する中国の兵士ら、4月5日)  Nir Elias-Reuters

 5月28〜29日の間に、北朝鮮とイスラエルをめぐる興味深い記事が出た。

 北朝鮮については、ロバート・ゲーツ米国防長官がフィナンシャル・タイムズ紙の記者に語った話が面白い。核実験で世界を動揺させて交渉の主導権を握ることはできないというメッセージを、メディアを通じてゲーツが北朝鮮に伝えようとしていることがよく分かる。

 しかし29日付のニューヨーク・タイムズ紙では、マーク・ランドラーとデービッド・サンガー両記者が、中国は北朝鮮に対する経済的、金融的な制裁を検討していると報じた

 一方、アメリカとイスラエルの間ではヨルダン川西岸地区への入植をめぐり対立が深まっているようだ。これは実に興味深い。




 ヒラリー・クリントン米国務長官は5月27日の発言で、イスラエルのネタニヤフ政権を危険にさらすことになろうとも、オバマ政権が強硬姿勢を変えることはなさそうだということを、一部の識者に示唆した。

「彼女はいかなるニュアンスも回りくどい言い方も排除することによって、イデオロギー的な(ネタニヤフ)政権が国内で政治的に受け入れられるような和解策を作れるようにした」と、ウッドロー・ウィルソン国際研究センターの公共政策専門家デービッド・ミラーは言う。「アメリカは『(イスラエルに)方針転換するよう圧力をかける』と決断したのだ」

 しかしイスラエル政府内には、増え続ける入植者にも土地を与えるべきだという共通認識がある。


 ただちにイスラエルに制裁を加えるというような議論はまだ起きていないが、歴史が多くを物語っている。米政府がイスラエルに制裁を課したのは91年が最後。これも入植地問題が原因で、最終的には当時のイツハク・シャミル首相の退陣を招いた。

 中国は北朝鮮への制裁を検討している。アメリカもイスラエルに制裁を課す一歩手前まで近づいている。もっとも、経済的な圧力を利用するという点においては、ある皮肉が浮かび上がる。経済制裁は敵よりも友人に対して行うほうが効果的なのだ。

(編集長からの書き込み:君が言わんとしていることが見えてきたぞ、もうやめろ)もちろん同盟国に圧力をかけるのは、敵対国に行うよりも気乗りしないだろう。

(編集長:これは警告だぞ!)経済制裁にはまるでパラドックスがあるように思える。

(編集長:オーケー、そこまでだ。パラドックスに関する君の著書の宣伝みたいなブログはここまで!)

Reprinted with permission from Daniel W. Drezner's blog, 6/1/2009. © 2009 by Washingtonpost. Newsweek Interactive, LLC.

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