最新記事

アフリカ

南ア大統領辞任劇の舞台裏

ムベキを追い出し実権を掌握したズマANC議長だが、「身内」が暴走して……

2009年4月27日(月)19時11分
スコット・ジョンソン(アフリカ総局長)

勝者の悩み 09年4月の大統領就任をほぼ確実にしたズマ。党内の過激派を抑えられるか(08年10月、ANC本部での記者会見でカメラのファインダー越しに)  Siphiwe Sibeko-Reuters

 アパルトヘイト(人種隔離政策)後の南アフリカで9年以上も政権を維持してきたターボ・ムベキ大統領が9月21日、辞任した。実質的には、与党アフリカ民族会議(ANC)の手で権力の座を追われた解任劇に近い。

 辞任は、国内の格差拡大に対する貧困層からの不満やANC内部の権力闘争が理由だった。25日には、ANCのクガレマ・モトランテ副議長が国民議会で後任に選出され、来年4月に予定されている総選挙まで暫定的に大統領を務めることになった。

 もっとも、ムベキの党内最大の政敵で4月の正式大統領就任が有力視されるジェイコブ・ズマANC議長は、支持者に穏健な行動を呼びかけ、追い込まれたムベキが残り半年の任期を全うすることに異論を唱えていなかった。「すでに死んだヘビを殴りつけても仕方がない」と、ズマは言った。

 一方、ANC青年同盟議長で党内急進派のジュリアス・マレマには、ムベキ政権を延命させる気はなかった。「ムベキを追い落とそう」とマレマは言い放った。「われわれは負ける戦いはしない」

 結果的にマレマの言葉どおりになったが、退陣のタイミングは予想よりずっと早かった。この発言から数日で、ムベキは10人の有力閣僚とともに辞任。任期満了までやらせればいいというズマの呼びかけは無視された格好になった。

 このマレマの「勝利」は、ズマにとって大きな試練でもある。収賄罪などで起訴されていたズマは12日、公訴棄却の決定を勝ち取り、大統領就任への障害になっていた長い裁判に決着をつけた。

「殺せ」を連発する支持者

 だが次は、もっと身近で厄介な問題に取り組まなくてはならない。声高に主張を叫ぶ過激な支持者たちをどうやって黙らせるかだ。

 来年4月、ズマが順当に大統領の座に就いた場合、一部の過激派の操り人形にはならないことをはっきりと示さなければ、権力の維持はおぼつかない。前政権の閣僚の3分の1がムベキとともに辞任したことを考えれば、この点はとくに重要だ(南アの経済成長の立役者とされるトレバー・マニュエル財務相も一時辞任を表明したが、後になって留任が決まった)。

 「自分が大統領になってもマレマの言いなりにはならないことを、ズマは国民に証明してみせる必要がある。マレマは大口たたきの危険人物だ」と、高級経済誌ファイナンシャル・メールの編集長で政治評論家でもあるバーニー・ムトンボティは言う。

 ズマにとって、彼ら急進派を黙らせるのは容易ではない。最も声の大きいズマの支持者は、最も忠実な支援者でもあるからだ。

 とくにマレマは、これまでに何度も扇動的な言動を繰り返してきた。南アフリカ学生会議の議長だった05年、ヨハネスブルクで主催したデモの参加者が一部暴徒化し、車や商店の窓ガラスを割る騒ぎを起こした。03年には、友人で政治的盟友のウィニー・マンデラ(ネルソン・マンデラ元大統領の前妻)が汚職がらみの罪で刑務所に送られそうになると、刑務所を焼き打ちしても救い出すと警告した。

 今年6月、ANC青年同盟の新議長に就任してからは、きわめて攻撃的なズマ支持の発言を連発している。たとえば、こんな具合だ。「はっきりさせようじゃないか。われわれはズマのために死ぬ覚悟ができている。それだけじゃない。ズマのために武器を取り、人を殺す覚悟もできている」

 (この発言が飛び出した集会に出席していたズマは、後で「不適切な」表現と評した。だが同時に、マレマのような若者が「やがて大人になり、正しい目的のために正しく言葉を使えるようになることを願う」とも語り、騒ぎの沈静化を図っている)。

 こうした過激な言動は、ムベキ時代より賢明で対立の少ない政権運営をズマに期待する人々の間に懸念を広げることになった。野党や経済界からマレマの発言に苦情が殺到すると、南アの人権委員会が調査を開始。マレマは結局、公的な発言で「殺す」という単語を使わないことを約束した。

 それでも、マレマの挑発的な言動は止まらない。今年夏には、最大野党の民主同盟が「反革命」をあおっていると非難。検察当局の捜査官はMI6(英国情報部国外部門)に雇われていると主張した。

 多くの国民は、マレマのような人物の台頭に危険な兆候を感じている。「ある種の『不寛容さ』が目につきだした」と、シティプレス紙の編集主幹を務める中立系政治アナリストのマタタ・ツェドゥは指摘する。「自分なりの政治的意見をもつ人間は、例外なく不当なレッテルを張られる」

 もっとも、ANC青年同盟の存在が懸念の対象になったのは、今回が初めてではない。アパルトヘイトを維持していた白人政権が崩壊した94年、当時のANC青年同盟議長だったピーター・モカバ(マレマの思想的な師でもある)は「農場主を殺せ、ボーア人を殺せ」という反白人のスローガンを大声で何度も叫び、人々の憎悪と恐怖をあおりたてた。

共産党と労働組合も危険

 ズマが対処しなければならない過激な身内は、マレマだけでもない。同盟関係にある南ア共産党や支持基盤の労働組合は、自分たちの気に入らないズマの方針には公然と異論を唱えてきた。つい最近も、ズマは企業寄りの発言を組合に批判され、公の場で謝罪をさせられたばかりだ。

 それでも、南ア国内の評論家やメディア関係者が最も懸念しているのは、マレマの一派が許容限度を超えて過激化する気配をみせていることだ。「若者がある程度まで戦闘的になるのは予想の範囲内だが、越えてはならない一線はある。最近は、自分たち以外のANC全体に対する侮辱としか思えない言動が目につく」と、シティプレスのツェドゥは言う。

 一方で、過激派の暴走を抑え込もうとする動きもある。モトランテ暫定大統領は冷静な保守派で、口先だけのマレマを嫌っているといわれる。先日、ヨハネスブルクで開かれたANCの記者会見では、党幹部の面々が発言者の席にいたマレマを牽制し続け、最後まで発言を許さなかった。

 ANCには、いざというときには過激派を抑え込み、主流派に従わせてきた伝統がある。血気盛んなANC青年同盟のモカバも、マンデラ政権.では単なる金持ちの副大臣に変身した。

 それにズマには、マレマの問題よりずっと重大な課題がある。「ズマの周辺には、きわめて冷静で注意深いやり手がそろっている。彼らがマレマのような連中に押しのけられることはない」と、政治経済政策の研究機関エッジ研究所(ヨハネスブルク)のスティーブン・ゲルド所長は言う。「(ズマが)国政運営というもっと重要な問題に取り組めるように、マレマは静かに脇へどかされるだろう」

 ズマが最も過激な支持者を従わせることに成功すれば、おそらく南アフリカの国全体を従わせることも可能だろう。

[2008年10月 8日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

連合、春闘賃上げ要求は平均5.94% 着地も高水準

ビジネス

モルガンS、今年のECB利下げ予想撤回 中東危機で

ワールド

イラン、イスラエルに大規模ミサイル攻撃 応酬は6日

ワールド

中国、GDP単位当たり二酸化炭素排出量の削減加速へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 6
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「え、履いてない?」モルディブ行きの飛行機で撮影…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 7
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 8
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 9
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 10
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中