最新記事

博物館

移民大国アメリカの素晴らしさと哀しさを象徴する「自由の女神」博物館

Beside the Golden Door

2019年7月4日(木)15時00分
ヘンリー・グラバー

女神像の中に入れない大半の旅行者にとって絶好の観光スポットに(写真奥は初代のたいまつ) DREW ANGERER/GETTY IMAGES

<5月にオープンした新施設は女神像の歴史と意義を学べる素晴らしいものだが>

800人近くをぎっしり乗せたミス・リバティー号が、アッパーニューヨーク湾の水面を切り裂いて進んでいく。やがてリバティー島の前まで来ると、船が右に大きく傾く。乗客が一斉に右側に駆け寄り、島に立つ緑の巨大な建造物を見上げるからだ。「写真を撮って!」という声があちこちで聞こえる。

リバティー島への訪問者の多くにとって、これが観光のハイライトだ。島に上がっても、たいてい法外な値段の食べ物や土産物を売る店の前を歩き、自由の女神像の後ろ姿を下から見上げるだけで終わる。

島を訪れる年間約450万人のうち、80~85%は女神像の台座にすら入れない。女神像の上まで上ることができる人はもっと少ない。01年の9.11テロ以降の警備強化も一因だが、それ以上に施設が小さいという事情が大きい。

そんな観光客に素晴らしい「残念賞」が完成した。5月16日にオープンした「自由の女神像博物館」だ。FXコラボラティブが建物を、ESIデザインが展示を設計した新博物館の充実ぶりは、女神像の台座の中にあった(狭くて、窓もなかった)旧展示スペースとは比較にならない。

トランプ時代に持つ意味

島の西端に完成した博物館は、仰々しい建物ではない。芝生に覆われた花崗岩の屋根が特徴的で、地面に半分埋まった岩の塊のようにも見える。「地質の一部のような建物にしたかった」と、FXコラボラティブのニコラス・ガリソンは言う。

館内では、女神像の歴史と意義を映像で学べる。展示コーナーでは、フランスで制作された女神像が1886年にリバティー島に設置され、やがて移民にとっての新天地のシンボルになっていった過程が紹介される。最後は、来館者が自分にとっての「自由」を表現したコラージュを制作できるコーナーが用意されている。出来上がる作品は、写真投稿サイトのインスタグラムに載せるのにうってつけだ。

女神が掲げていた最初のたいまつが展示されているスペースもある。たいまつは、86年に現在のものと取り換えられた。古いたいまつは、いかにも壊れやすそうで、手作り感があり、いかにも年代物に見える。

ただ展示品の中に17年の独シュピーゲル誌の有名な表紙は含まれていない。移民に敵対的な政策を打ち出しているドナルド・トランプ米大統領が自由の女神の首を切断して、その生首を掲げている姿を描いた絵だ。私は博物館を見学していたとき、昨今の移民をめぐるニュースに、この風刺画を重ね合わさずにいられなかった。

ESIデザインのエドウィン・シュロスバーグ社長に尋ねてみた──展示内容は、トランプ政権の移民制限政策に影響されたのか。「違うと言うのは難しい」とのことだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウクライナ大統領と会談 トマホーク供与

ワールド

トランプ氏、中国主席との会談実施を確認 対中100

ワールド

トランプ政権、民主党州で新たにインフレ支出凍結 1

ビジネス

米セントルイス連銀総裁、雇用にリスクなら今月の追加
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 5
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 6
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 7
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 8
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 9
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 10
    ビーチを楽しむ観光客のもとにサメの大群...ショッキ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中