最新記事

戦争報道

記者をスパイ扱いする国防総省に批判集中

「軍事作戦の報道は、スパイ活動と非常に類似したものになり得る」と、新指針

2015年8月25日(火)17時00分
アディティヤ・テジャス

敵は米政府? 戦闘地域での取材は今以上に危険になりかねない REUTERS

 米国防総省が6月に発表した、戦争や紛争に関する報道用の新指針が猛反発を食らっている。ニューヨーク・タイムズは論説で、記者をスパイ扱いするような規定を批判。「取材活動を今以上に危険かつ困難にし、検閲の対象にしかねない」と、国防総省に指針の撤回を求めた。

 1176ページに及ぶ新指針は、従軍記者をアルカイダのメンバーなどと同列の「非特権戦闘員」として扱う場合もあり得るとしている。「(軍事)情報を伝えることは、戦闘に直接的に加わる行為と見なせる」という。

 新指針はまた、「軍事作戦の報道は、情報収集、さらにはスパイ活動と非常に類似したものになり得る」と述べ、「記者が機密性の高い情報を敵に与えないよう、記事を検閲するか、何らかの保安措置を講じる」必要があると、政府に助言している。

「スパイ活動を行った記者は処罰される可能性もある。スパイと見なされたくなければ、関係当局の許可を得て、公然と活動することだ」

 こうした規定は報道の自由を大きく妨げ、国際社会でのアメリカの評価を下げることになると、論説は主張する。「この指針を根拠に世界中の独裁者たちが、ジャーナリストに対する不当な扱いは米政府の基準に沿ったものだと主張しかねない」

昨年は世界中で60人のジャーナリストが死亡

 国防総省高官は匿名でニューヨーク・タイムズの取材に応じ、ジャーナリストが「非特権戦闘員」になった例に、アフガニスタンの元国防相で北部同盟の指導者だったマスード将軍の01年の暗殺事件を挙げている。これに対し論説は、マスードを殺したのはカメラマンに扮したテロリストであり、「ジャーナリストではない」と指摘。「ばかげた」例だと切って捨てている。

 ジャーナリスト保護委員会(CPJ)によると、昨年には世界中で少なくとも60人のジャーナリストが死亡、従軍記者たちはここ数年で最も危険な状況下で取材を敢行している。「人権と報道の自由を守るための国際的なリーダーシップが最も求められている今、米国防総省は不幸にも倫理基準を引き下げる利己的な指針を作成した」と、CPJは先月末に声明を出した。

 国境なき記者団が今年発表した「報道の自由度ランキング」では、アメリカは180カ国中49位という不名誉な位置にある。

[2015年8月25日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

クーグラー元FRB理事、辞任前に倫理規定に抵触する

ビジネス

米ヘッジファンド、7─9月期にマグニフィセント7へ

ワールド

アングル:気候変動で加速する浸食被害、バングラ住民

ビジネス

アングル:「ハリー・ポッター」を見いだした編集者に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中