最新記事

戦闘服

米軍の迷彩ファッション戦争

かつては「森林用」と「砂漠用」の2種類だった戦闘服が、陸海空軍や海兵隊の開発競争で今や10種類?

2013年7月18日(木)16時37分
ジョシュ・ジーザ

身を潜めて タリバンの攻撃に備える米兵(アフガニスタン)。迷彩服が生死を分けるのは確かだが Goran Tomasevic-Reuters

 米軍がクロゼットの大掃除を迫られそうだ。ここ10年ほど米軍は、組織ごとに戦闘服の迷彩柄を増やしてきた。だが、議会の我慢が限界に達したようだ。下院は先頃、迷彩柄を18年10月までに軍全体で統一するよう求める措置を承認し、上院軍事委員会も同様の規定を承認した。

 ウィリアム・エンヤート下院議員(民主党)がこの提案を思い立ったきっかけは、微妙な違いしかない戦闘服のデザインに、各軍が相当の予算を使っていることを報じたワシントン・ポスト紙の記事だった。実際、02年に米軍の迷彩柄は「森林用」と「砂漠用」の2種類だったが、今は10種類もある。

 「デザイン戦争」に火を付けたのは海兵隊だった。31万9000ドルを投じて森林用と砂漠用のデジタル迷彩を開発し、02年に発表した。クールなデジタル迷彩は他の組織も羨むものだったが、使うことはできなかった。海兵隊がまねされるのを防ぐために、ワシと地球といかりを合わせた海兵隊のエンブレムを組み込んでいたからだ。

 それならばと、陸軍は320万ドルを投じ、独自の迷彩をデザインした。05年に発表されたデジタル迷彩は、森林でも砂漠でも機能するはずだった。だが戦闘が続いていたアフガニスタンの風景の中では迷彩として機能しないことが分かり、デザインし直すことに。こうして10年に、少し古風な感じのする「マルチカム」という迷彩を開発した。

 一方、空軍はグレーとブルーをあしらった「タイガーストライプ」に320万ドルを投入。しかし、これもアフガニスタンで役に立たなかったため、陸軍のマルチカムを採用した。海軍はグレーとブルーなど数種類の迷彩を制作。戦艦コンスティテューションのエンブレムを入れたのに、海兵隊からデザインが酷似していると文句を言われた。

 迷彩柄の統一について、軍内の意見は分かれている。レイ・メイバス海軍長官は、いま海軍が使っている青い迷彩は効果的でなく、「あの素晴らしい迷彩を着ていたら、海に落ちた兵士がいても分からない」として、デザインの統一に賛成の意向を示した。

 競争を仕掛けた海兵隊は不満顔だ。「あの迷彩は海兵隊のアイデンティティーだ」と、マイケル・バレット特務曹長は文書で声明を発表した。「海兵隊はどこでも人々の安全を保障する。だから邪魔をしないでほしい」

[2013年7月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国のイラン産原油輸入、6月に急増 紛争前の輸送加

ワールド

トランプ氏の出生地主義見直す大統領令、米最高裁が全

ワールド

プーチン氏、ウクライナと協議継続の用意表明 交渉担

ワールド

イスラエル軍法務総監、ガザ配給所の発砲巡り戦犯調査
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急所」とは
  • 3
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 4
    富裕層が「流出する国」、中国を抜いた1位は...「金…
  • 5
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 6
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    中国軍事大学が特殊任務向け「蚊サイズ」ドローンを…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中