最新記事

米中摩擦

中国、突如アメリカ車に追加関税の脅威

米自動車業界に対する報復として最大22%の追加関税を発表した中国政府の真意と世界経済への影響

2011年12月15日(木)16時16分
トーマス・ムチャ

成長に陰り 狙いは国内産業の保護?──今年4月、上海モーターショーに出展したGM車 Carlos Barria-Reuters

 不安定さを増す世界経済にとっても、米自動車産業界にとっても由々しき事態だ。

 中国商務省は12月14日、アメリカから輸入している排気量2.5リットル以上の乗用車やSUV(スポーツユーティリティー車)に対して追加関税を課すと発表した。こうしたアメリカ車を不当に安く販売するダンピングが行われているというのが理由だ。

 ロイター通信によれば、追加される関税率は最大22%。アメリカから輸入される自動車には現在25%の関税が課されているが、これに上乗せされる形となるだろう。

 今回の発表に対し、アメリカの議員らは素早く反応した。「中国は国際的な貿易規定を容赦なく破り、自由競争に反するやり方でアメリカの自動車メーカーと労働者に対して優位に立とうとしている。アメリカも躊躇なく反撃しなければ」と、ミシガン州選出のデビー・スターベナウ上院議員は言う。

 スターベナウの主張には下院議員4名も賛同。中国側の動きは「不当」で「アメリカとその他の貿易相手国に対する許されない報復行為」だとし、米通商代表部が対応に乗り出すよう訴えている。

 世界最大の自動車市場である中国との貿易を積極的に推進していた米自動車産業にとって、新たな貿易摩擦は最悪のタイミングといえる。

 とはいえ実は、中国における自動車販売数はここにきて劇的に減少している。中国政府は国内産業を守るために介入へ動いたとみられる。


「今回の動きは、中国政府が市場にいつでも政治的に介入できることを示している」と、ドイツの金融機関バンクハウス・メッツラーのアナリストであるヨーガン・ピーパーはブルームバーグに語った。「自動車産業の成長は中国にかなり依存しており、今後の拡大ペースに懸念が生じている」


 今回の騒動は、自動車貿易をめぐって米中がこれまで繰り広げてきた争いの延長線上にある。

 バラク・オバマ米大統領は09年、中国製タイヤに対する輸入制限措置として35%の追加関税を課した。中国はこの動きに強く反発したが、今年9月には世界貿易機関(WTO)がアメリカの措置は合法との判断を下した。今回の中国側の追加関税は、この一件をめぐるアメリカへの報復とみられる。

 世界経済を動かす2大経済大国である米中が、本格的な貿易戦争へ突入する可能性はまだ低い。だがもし現実になれば、壊滅的な影響を受けるのは米自動車産業だけではない。世界全体が深刻な事態に陥るだろう。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、日鉄とUSスチールの「パートナー

ワールド

マスク氏、政府職を離れても「トランプ氏の側近」 退

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23

ワールド

トランプ氏の核施設破壊発言、「レッドライン越え」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中