最新記事

ウィキリークス

アメリカの法はアサンジを裁けるか

不当に入手した国家機密を世に広めた者には「言論の自由」が認められないというなら、米政府は証拠を示す必要がある

2011年1月5日(水)17時15分
ニック・ブレイビン

彼は「有罪」なのか 2010年12月16日、ロンドンで保釈されたアサンジ Stefan Wermuth-Reuters

 過去に類を見ない規模の政府の内部文書を暴露した内部告発サイト「ウィキリークス」と創設者のジュリアン・アサンジ。彼らによって明らかにされようとしている謎がもう1つある。不当に入手した国家機密を世に広めた者は、「言論の自由」を掲げた憲法によって守られることなく有罪となるのか、という謎だ。

 憲法と国家の利益の衝突をめぐるほかのケースと同様、答えは「場合による」。だが過去の例などを見ると、アサンジの起訴はまず認められるだろう。

 問題になるのは、アサンジが連邦法に触れる行為をしたかどうか。司法省と国防総省は諜報活動取締法の適用を検討している。アメリカの利益を損なうか他国の利益になり得ると知りながら、国防に関する文書や情報を権限なく所持し、故意に広める行為を罰する法律だ。

 言論の自由と機密文書の公開を議論するなら、71年のペンタゴン・ペーパーズに立ち返る必要がある。ベトナム戦争に関する米政府の極秘報告書の内容が、ニューヨーク・タイムズ紙とワシントン・ポスト紙に流出し、報道された事件だ。

 このとき最高裁は政府の新聞発行差し止め請求を棄却。この結果、裁判所は発行の事前差し止めができないことになった。だが報道が、諜報活動取締法に照らし合わせて違法かどうかは判断されなかった。「発行後」の問題も議論されていない。

諜報活動取締法を適用か

 01年、不当に盗聴されたストをめぐるペンシルベニア州教員労組の委員長らの会話が、地元のラジオ局の手に渡って放送された事件の判決で、最高裁はこの情報が社会的な関心事であり、その重要性はプライバシーの保護よりも優先されると結論付けた。そしてラジオ局が不当な情報入手に関与しておらず、仮に不当に入手された情報だったとしても、第三者からそれを受け取った報道機関を裁く法律はない、と認定した。

 プライバシーが問題になった01年のこの判決と異なり、今回のケースではアサンジに諜報活動取締法が適用できる可能性がある。不当な情報入手にアサンジたちが絡んでいないとも証明されていない。事件による「被害」も、個人のプライバシーよりは大きい。

 どうやら裁判自体は行われそうだ。後は米政府が、先週イギリスで逮捕されたアサンジをアメリカの裁判所に引きずり出し、「証拠」を示せるかどうかに懸かっている。

Slate.com特約

[2010年12月22日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、追浜と湘南の2工場閉鎖で調整 海外はメキシコ

ワールド

トランプ減税法案、下院予算委で否決 共和党一部議員

ワールド

米国債、ムーディーズが最上位から格下げ ホワイトハ

ワールド

アングル:トランプ米大統領のAI推進、低所得者層へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    「運動音痴の夫」を笑う面白動画のはずが...映像内に…
  • 5
    MEGUMIが私財を投じて国際イベントを主催した訳...「…
  • 6
    配達先の玄関で排泄、女ドライバーがクビに...炎上・…
  • 7
    大手ブランドが私たちを「プラスチック中毒」にした…
  • 8
    米フーターズ破綻の陰で──「見られること」を仕事に…
  • 9
    メーガン妃とヘンリー王子の「自撮り写真」が話題に.…
  • 10
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 5
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 8
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 9
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中