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アリゾナ発「移民弾圧」第2幕

不法移民を取り締まるアリゾナ州新法に続いて合衆国憲法の修正論が浮上。「アメリカ生まれの子供に自動的に市民権付与」の廃止を保守派が訴える

2010年8月4日(水)17時18分
イブ・コナント(ワシントン支局)

邪魔者扱い メキシコ市の米大使館前でアリゾナ州の移民法に反対する人たち(5月29日) Daniel Aguilar-Reuters

 アリゾナ州で4月23日に成立した移民法は、不法移民の弾圧強化を目指す保守派の戦いの始まりに過ぎない。この戦いはさらに広がり、アメリカ合衆国憲法の修正にまで発展する可能性がある。

 先週、リンゼー・グレアム上院議員(共和党)はFOXニュースに対し、アメリカ国内で生まれた子供が自動的に市民権を得る権利を定めた合衆国憲法修正第14条の変更を検討している、と語って物議をかもした。不法移民の子供にはそうした権利を認めないようにしたいというのだ。

「彼らは子供を生むために(アメリカに)やって来る。いわば『生み逃げ』だ」と、グレアムは言った。また、自分は「人道的」でありたいが、今後20年間で不法移民の子供2000万人以上が市民権を得ることを恐ろしく思うと語った。

 憲法修正を訴えたのはグレアムが初めてではないが、彼の主張はこれまで異端とされていた発想に信ぴょう性を与えかねない。サウスカロライナ州選出のグレアムは移民問題については共和党の中でも穏健派にあたり、不法移民に市民権を与えようという民主党議員たちと協力的な姿勢を取ってきた。

 それが今では、米国移民改革連盟さながらの主張を繰り広げている。家族が在留許可を得たり、将来のアメリカ移住のために生む、いわゆる「アンカー・ベビー」の場合、親は税金を納めなくても、子供は社会保障を享受し税金を吸い取る存在になる。だから市民権を与えるべきではない、と。

 09年には、当時ジョージア州の下院議員だったネイサン・ディール(共和党)が、そうした赤ん坊に市民権を与えるのは両親のうち一方が既に市民権を獲得しているか、合法的な移民である場合に限るとする法案を提出した。法案は92人の共同提案者がいたが、下院を通過することはなかった。

グレアムだって元をたどれば移民の子

 グレアムは当面の政治的な点数稼ぎを狙っているだけだ、という見方もあった。彼と対立する人々は、なにより憲法を修正するには連邦議会上下両院で3分の2以上の賛成によって発議し、4分の3以上の州の批准が必要なことを指摘している。

 だが、グレアムの広報担当であるケビン・ビショップは、「彼はこの件に非常に真剣に取り組んでいる」と言う。憲法を修正しなくても自動的な市民権付与をなくすことはできるかもれないとビショップは語り、ラマー・スミス共和党下院議員(テキサス州選出)について言及した。

 スミスは、不法移民に自動的に市民権を与えることは合衆国憲法修正第14条の誤った解釈であり、議会が国の移民政策を決める権限は憲法で保障されていると主張する。この問題は法律で対処できると信じるスミスは、グレアムが憲法修正の動きに加わったことを大いに喜ぶ。

「移民政策をめぐる彼の姿勢はこれまで人々の注目を集めてきた」と、スミスは本誌に語った。「だから市民権の自動付与を終わらせる動きを彼が支持するのは、非常に意義深いことだ」

 スミスとグレアムが憲法修正に向けて実際に動き出せば、かなりの抵抗に合うだろう。民主党のルイス・グティエレス下院議員(イリノイ州選出)は本誌に対し、こう語った。

「人口中絶に反対し、家族の価値を重んじる政治家たちが、赤ん坊の本国送還に賛成するのは矛盾しているように思える。......アメリカは数百年にわたり移民を受け入れ、社会に同化させてきた。我々はそれを続けていくべきた。アイルランド、イタリア、グレアム家がやって来た国、あらゆる国の移民たちだ」

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