最新記事

ファストフード

ランチで稼ぐ偽善エコ

低炭素ランチで「地球を救おう」というが、エコを売り文句に消費をあおるチェーン店の矛盾

2010年7月30日(金)13時09分
ジェニー・ヤブロフ

 「地球の低炭素レストラン」をうたうベジタリアンのファストフードチェーン「オタリアン」。店員が客に盛んにデザートの「チョッコー・トリート」を薦めている。「チョコ味でとってもおいしいんです。このきれいなラベンダー色の紙でラッピングするんです」

 実際は「とってもおいしい」とは言い難い。とってもこってりだが、チョコ味はそれほどでも......。もっとも、実は食べ物は二の次で、オタリアンがこだわるのはラッピングだ。

 オタリアンのコンセプトは何とも大胆。何しろ「ランチを食べて地球を救おう」というのだ。「ミッション」だの、「マニフェスト」をもじった「メニュフェスト」といった言葉がパッケージを飾り、トレイに載せる紙には低炭素ランチセットの宣伝文句が躍る。バーガーは1個ずつ紙で包まれ、ボール紙のたすきが掛けてある。たすきに貼ったシールには「100%生分解性」のマークが......。

 店内では壁に並んだテレビが正しいエコ生活を説き、ウェブサイトは系列店舗のグリーンな設計や省エネへの取り組みを高らかにうたう。ラッピングはすべて再生紙を使用とか。でも、店内のテレビの消費電力はどうなの?

 ニューヨークに2店舗あり、もうじきロンドンにも2店舗がお目見えするオタリアン。一番おいしいネタは、そのビジネスの裏側にある皮肉な事情だ。

おうちごはんが一番

 創業者のラディカ・オスワルは、化学肥料で財を成したオーストラリアの富豪(世界最大級の液化アンモニア工場の所有者)の妻。夫妻は17台の車を収納できるガレージ付きの大邸宅を建設中。総工費は7000万ドルだ。

 店のコンセプトと矛盾しませんかと聞かれて、オスワル夫人は、新築の自宅では100%再生可能エネルギーを使うと主張した。ご丁寧にも、建設作業員には肉食を禁じたそうだ。「二酸化炭素(CO2)の排出を減らすには豪邸の建設を見合わせるのが一番では?」と突っ込みたくもなる。

 オスワル夫妻の生活スタイルには目をつぶるにしても、オタリアンのエコは緩過ぎる。確かに肉中心の食事より菜食のほうがカロリー当たりの排出量(材料の生産流通過程で出るCO2)は少ない。地元で取れた食材のほうが、遠くから運ばれてきた食材よりおおむね環境負荷が低いのも事実だ。

 だが、オタリアンのお薦めのセットを食べれば「なんと3・1キロも炭素排出を減らせます」というメニューの能書きはウソ。これはあくまで、マクドナルドなどのランチセットと比べた数字にすぎない。オタリアンの客の多くは、そもそもマックで食べないだろう。オタリアンの誇る低炭素のランチセットでも、その材料の生産・輸送で4・07キロの温室効果ガスが排出されている。

 そうは言っても、食べないわけにはいかないし、どうせ食べるなら、なるべく炭素排出量が少ないメニューを選ぶのは悪いことではない。けれども、エコをうたい文句に消費を促す商法はちっとも地球に優しくない。

 「私はレジ袋ではありません」とプリントしたアニヤ・ハインドマーチのエコバッグが人気だが、このバッグもビニールで包んで工場から出荷される。オタリアンも同じ。エコを販促手段にして消費をあおり、消費が環境に優しいという幻想を振りまいている。

 フードライターのキャシー・アーウェイが言うように、「家で料理してエコを目指すほうが、簡単だし、安いし、メリットが多い」。

 環境に優しい生活がしたいなら、消費を抑えるのが一番だ。車を減らし、外食を控えること。でも、それはきれいなラベンダー色の紙でラッピングして売るには不向きなアイデアらしい。

[2010年7月 7日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イラン、IAEAとの協力協定無効と表明 査察不可能

ビジネス

米ISS、コアウィーブによる90億ドル規模の買収計

ワールド

アラスカLNG事業、年内に費用概算完了=米内務長官

ワールド

アングル:高市政権、日銀との「距離感」に変化も 政
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 7
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    若者は「プーチンの死」を願う?...「白鳥よ踊れ」ロ…
  • 10
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中