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ゴア夫妻、熟年破局の不都合な真実

40年の結婚生活の末に別居したアル・ゴア元米副大統領夫妻だが、最初から2人の間には越えがたい溝があった

2010年6月2日(水)17時53分
ハワード・ファインマン(ワシントン支局)

愛か義務感か 2000年8月の米大統領選キャンペーン中に、民主党全国大会のステージ上で熱烈なキスを交わすゴア夫妻 Sam Mircovich-Reuters

 彼らは最初から不可解な夫婦だった。政治肌とノンポリ、純粋な野心家とのんびり派、勉強家タイプとバンドのドラマータイプ――どこをとっても正反対。そんな2人が10代で恋に落ち、以来お互いの間の溝を埋めようと努力してきた。そして40年後、失敗に終わった

 私はアル・ゴア元米副大統領を80年代初頭から見てきたし、妻のティッパーも(夫ほどではないが)知っている。彼らはいつでも、若かりし日の情熱の余韻だけでつながっている奇妙で不安定な夫婦に見えた。

 上流家系に生まれ、民主党上院議員の父親を持つゴアは、学生時代からワシントンの一流ホテルに住み、名門私立校の聖オルバンズ校に通っていた。一方のティッパーは根っからの地方人間。バージニア州アーリントンの裕福な事業家の娘で(父親はゴア夫妻に郊外の家をプレゼントした)、楽しいことが大好きな少女だった。そんな2人の交際は、10代のスリリングな反逆行為だった。

 しかし、父親からいつか大統領になることを期待されて育った野心家のゴアは、一時は異なる分野に手を出したものの(新聞記者をしたり神学生だった時期もある)、政治の道に情熱を注いだ。対照的にティッパーは、慎重で献身的な政治家の妻という役割に馴染めずにいるように見えた。

仕事とプライベートの混同に困惑

 ティッパーなりにできる限りの努力はした。まだ子供が幼かった頃、アーリントンの自宅ではよくクリスマスパーティーを開いた。ゴアのスタッフがサンタや小人に扮し、夫も(あまり社交派ではないものの)こうしたイベントを楽しもうと努めていた。しかしティッパーは、もともと外交的な性格ながら、自宅を使って仕事と政治とプライベートをごちゃ混ぜにすることに困惑しているようだった。

 ティッパーはイベントのたびに、会場で自ら写真を撮って回った。彼女の芸術的な素養を生かす方法であると同時に、パーティー客と距離を置いておくための手段でもあった。

 ゴア夫妻は、ウェディングケーキに載った新郎新婦の人形のように強く結び付いているように見えることもあった。ゴアが副大統領時代に催していたハロウィーンパーティーでは、毎回2人は誰だか見分けられないほど手の込んだ仮装をしていた(衣装はウォルト・ディズニー社が提供)。彼らなりの茶目っ気だったのだろう。ゲストは誰もゴア夫妻だとは気づかないまま、一緒に写真に納まっていた。仮装という厚い鎧をつけてゴア夫妻が楽しんでいるとは、当時の私は考えもしなかった。

 取材で副大統領公邸を訪れることも何度かあったが、ティッパーと会っても何も収穫は得られなかった。政治や政策について話すのはアルのみ。ティッパーを同席させなかったわけではない。単に彼女が政治の世界とは無縁の人だっただけだ。

 ゴア夫妻は数多くの試練や悲劇に直面した。アルは愛する姉を肺癌で失い、ティッパーは鬱病に悩み、息子のアルバート3世は父親の目の前で交通事故にあい、瀕死の重傷を負った。

 アル・ゴアは立派で意欲的な男だ。多くの問題で時代の先を行き、犯した過ちの数以上に正しいことを成し遂げてきた。

 しかし、ゴアのことをおおらかな人だと言う人はいないだろう。ティッパーを見れば分かる。「政治家の妻」をいつやめてもおかしくない感じだったのだから。

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