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愛する家族を殺す男たちの狂気

家族による殺人事件が不況とともに増加。おぞましい凶行に走る心理が新研究で明らかに

2010年4月13日(火)14時40分
キャサリン・スキップ(マイアミ支局)、アリアン・カンポフロレス(マイアミ支局長)

哀しい末路 人気プロレスラーのクリス・ベノワは07年に妻ナンシーと7歳の息子を殺して自殺 George Napolitano-FilmMagic/Getty Images

 フロリダ州在住のニール・ジェイコブソンは1月23日に、妻と双子の息子を射殺した容疑で逮捕された。ほんの数時間後には、子供たちの誕生日を祝うはずだった。

 地元の報道によると、ジェイコブソンは父親の死や度重なる事業の失敗で、徐々に気分が落ち込んでいたという。彼は家族を殺害した後、大量の薬を飲んで自殺を図った(結局死に切れず、第1級殺人罪で裁判にかけられている)。

 何ともゾッとする犯罪だ。一体何が人間をこれほどおぞましい行為に駆り立てるのか。

 家族殺しの犯人は、理解されていない部分が非常に多い殺人者だ。大抵は自殺したり直後に自白するので、事件はすぐに解決し、報道されなくなってしまう。

 そのため、これまで家族殺しに走る人間の心理が分析されることは少なかった。それが今、新たな研究によって、家族殺しに至る心理的背景に光が当てられつつある。

 ノーザン・アリゾナ大学のニール・ウェブズデール教授は近著『家族殺しの心──殺人者211人の感情の在り方』で、彼らの共通点を指摘している。自分は社会が求める理想的な男の「なり損ない」だと感じている点だ。

加害者は多くが中年男

 別の研究グループが行った10年越しの研究からは、不穏な要素が見て取れる。予備調査の結果では、失業率の上昇に伴って、家族殺しの発生件数が増加していた。

 一般的には、経済と殺人の関係性は薄い(不況下でも全米の殺人事件は減少傾向にある)。ところが家族を殺す場合は話が違うと、この研究を主導したノースイースタン大学のジャック・レビン教授(社会学)は言う。

 近く発表されるレビンの研究では、アメリカで起きた家族殺しの件数を2つの時期で比較している。失業率が約5%だった08年1〜4月と、9%近くに上がった09年1〜4月だ。被害者が3人以上で加害者が自殺したケースに絞って調査すると、発生件数は7件から12件へ、犠牲者は29人から56人へ増加していた。

 ミネソタ州矯正局研究・評価部門の主任で、『アメリカにおける大量殺人──その歴史』の著者グラント・デューイによると、連続殺人や無差別殺人などの大量殺人事件と同様に、家族殺しも件数自体は多くない。全米で1年間に発生する約1万8000件の殺人事件の中でも0・1%以下だ。ただし大量殺人事件の中では、家族による殺人が占める割合が高く、ここ数年で平均41%を占めている。

 家族を手に掛けるのは圧倒的に男性が多く(推計では95%)、白人と中年が多数を占める。男として自信が持てず、子供時代に虐待を受けていた例が多い。幼児期に無力感にさいなまれたせいで、多くが家族を徹底的に支配しようとし、自分が経験したことのない理想の家庭を築こうともがく。

 経済が低迷すると仕事は減り、緊張は高まり、絶対的な支配力が揺らいでしまうというわけだ。

 ノーザン・アリゾナ大学のウェブズデールによると、家族を手に掛ける殺人者は「支配型」か「思いやり型」に分類されるという。

鎮静剤を与えてから絞殺

 支配型を突き動かすのは強い怒りだ。家族に命令し、時には虐待して、家庭で権力を振るうことによって自尊心を保っている。とはいえ、こうした態度は結婚生活の破綻を招き、妻子に逃げられることも多い。支配力が消えると屈辱を感じるようになり、最後には発作的に凶行に及んで自分の力を再び誇示しようとする。

 一方、思いやり型の動機は「ゆがんだ愛情」だ。「このタイプにとっては家族こそが自分のすべてだ」と、ペンシルベニア大学社会政策実践学部長で家庭内暴力研究の権威リチャード・ゲレスは言う。

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