最新記事

米メディア

NYタイムズとザ・フーの意外な共通点

ニューヨーク・タイムズが対イラン強硬派のばかげたコラム記事を掲載し続ける理由とは

2010年2月16日(火)16時00分
ダニエル・ドレズナー(米タフツ大学フレッチャー法律外交大学院教授)

多様な視点を イラク侵攻前、メディアの論調は「開戦一色」に染まった(写真はニューヨーク・タイムズ本社) Reuters

 ハーバード大学ケネディ政治学大学院のスティーブン・ウォルト教授は、2月9日付のニューヨーク・タイムズ紙に掲載された安全保障専門家のアダム・ローサーのコラムを反証している。イランの核開発問題が中東とアメリカの外交政策に与える「有益」な側面を指摘したコラムだ。ウォルトの議論に単純に乗っかるのではなく、コラムが掲載された背景について考えてみたい。

 この件で、私は同紙オピニオン担当編集者のデービッド・シプリーの狙いに興味をそそられている。ローサーの奇妙なコラムは、ここ数カ月の間で決してめずらしいものではない。イランへの空爆が名案だと主張する分析もあったし、イランの指導者層との外交関係を高めるには反政府勢力の声を無視するべきだというコラムもあった。

 これらの意見のいずれにも私は同調しないが、こうした意見がイラン問題をめぐる議論に含まれることには賛成だ。2003年のイラク侵攻以来、政策面で異なる選択肢が公に議論されなかったことは、反省材料として一般的に認識されている。外交問題の論客も学識者も、揃ってイラク侵攻前に議論が欠けていた点を指摘している。彼らの分析に多少の誇張はあるが、主要新聞のコラム欄がイラクへの武力行使を支持する意見で埋まっていたことは否定できない。

 おそらく、シプリーはロックバンド「ザ・フー」の曲『Won't Get Fooled Again』(邦題は『無法の世界』、「もうだまされないぞ」という意味)の心境なのだろう。シプリーは、イラン情勢に関して可能な限り多様な視点が必要だと考えている。

 これが本当なら、称賛に値することだ。外交的な危機が進行する中で、これこそがニューヨーク・タイムズのオピニオン面が果たすべき役割だろう。唯一の懸念は、これらのコラムの論拠の正当性だ。ウォルトが言うように、これらは「ばかげた議論」だ。それでも、これらの意見が検証された上で否定されれば、外交政策関係者はイラン問題で正しい判断をしていることになる。

Reprinted with permission from Daniel W. Drezner's blog, 10/02/2010.
© 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ヤゲオ、芝浦電子へのTOB価格を7130円に再引き

ワールド

北朝鮮、韓国が軍事境界線付近で警告射撃を行ったと批

ワールド

インテル、米政府による10%株式取得に合意=トラン

ワールド

焦点:中国、社会保険料の回避が違法に 雇用と中小企
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子、ホッキョクグマが取った「まさかの行動」にSNS大爆笑
  • 3
    3本足の「親友」を優しく見守る姿が泣ける!ラブラドール2匹の深い絆
  • 4
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    海上ヴィラで撮影中、スマホが夜の海に落下...女性が…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 9
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中