最新記事

米大統領

就任1年オバマの知られざる勝率

議会での成功率は歴代大統領トップの96.7%なのに、その成果は有権者に伝わっていない

2010年1月19日(火)17時02分
エレノア・クリフト(本誌コラムニスト)

1年の足跡 政権が直面する様々な難題を考慮すれば、オバマの業績はすばらしい Jim Young-Reuters

 バラク・オバマ大統領を批判する共和党は、「何も成し遂げていない」とか「口先だけで実行が伴わない」と言うお決まりの文句を口にする。同時に、保守勢力はオバマの「社会主義的な」政策がアメリカを破滅に向かわせているとも吠え立てている。どっちなのか?何も成果をあげないことと、まずい政治方針で成果をあげることは矛盾する。

 しかし政治誌コングレッショナル・クオータリー(CQ)の最新調査によると、オバマが何もしていないと野次る共和党も、同じことに当り散らすリベラル派の批判も、どちらも間違っている。CQは、オバマを過去50年間で最も米議会に自身の意向を反映させている大統領と位置付けている。伝説的な大統領リンドン・ジョンソンよりも上だ。オバマが立場を明確に示した場合の上下両院の議決で、オバマの勝率は96.7%に上り、1965年にジョンソンが出した最高記録の93%を上回っている。

就任後はアピール下手に?

 こうした統計結果には、より深い分析が必要だ。オバマがそれほど実績を上げているのなら、なぜ民主党は窮地に立たされているように感じているのか。もしも議会中間選挙が今日実施されたとしたら、民主党が喜べる結果にはならないだろう。「民主主義にとって重要なのは、有権者がどう評価するかだ。議会の議決ではない」と、ブルッキングズ研究所のウィリアム・ガルストン上級研究員は言う。「オバマ政権が議会で成果を上げていたとしたら、少なくともそれをうまく伝えられていない」

 オバマは懐疑的な政治エリートに立ち向かい、自身を売り込んで大統領選を戦った。だが大統領に就任してからのアピールは上手くいっていない。

 確かに、CQの調査は「オバマは何もしていない」という思い込みに一石を投じるものだろう。だが議会関係者に取材すると、議決された案件の影響力を考慮する必要があるという。ある議会関係者は、自身が「40年ルール」と呼ぶ基準を引き合いに出す。40年後に語られなければ大した議決ではない、というものだ。

 当時副大統領だったジョンソンはジョン・F・ケネディ大統領の暗殺を受けて63年に就任したが、翌年の選挙では自身の力で大統領の座を勝ち取った。就任1年目の65年春に、ジョンソンは黒人の投票権を認める投票権法を可決させ、メディケア(高齢者医療保険制度)も同年夏に議会で成立させた。このころ、上院には過半数を大幅に上回る67人の民主党議員がおり、ケネディの威光もまだ残っていた。

医療保険改革で歴史に名を刻めるか

 2050年のアメリカで、オバマの景気刺激策はあまり語られていないかもしれない。しかし公平な歴史家ならば、危機の瀬戸際から経済を回復させたオバマを評価するだろう。オバマが任期の1年目に共和党の支援なくして議会を通過させた7870億ドルの景気刺激策の重要性は疑う余地がない。医療保険改革法案も議会を通過する見通しだ。党派的な争いで文句を付けられたとしても、オバマにとって永続的な成果となるだろう。

 オバマはジョンソンにあった構造的な優位点なしに、こうした成果を挙げることになる。ジョンソン政権時にも、公民権法を潰そうと南部選出議員による議事妨害があったが、現在ほど乱用されていなかった。また、ジョンソンの時代では現在のように議会交渉が公にならなかったため、有権者は民主党が当時行った説得工作などが有権者の目にさらされることはなかった。

 現代の困難を考えれば、オバマの成果は評価されてしかるべきだろう。それは民主党の大物議員と良好な協力関係を築いてきたことを物語っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国GDP、第2四半期は5.2%増に鈍化 底堅さも

ワールド

トランプ氏の「芝居じみた最後通告」 ロシアは気にせ

ビジネス

焦点:来たる米Tビル大量発行、今後1年半で1兆ドル

ワールド

アングル:米政権の財政運営「視界不良」、情報不足に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 5
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 6
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 7
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 8
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中