最新記事

気候変動

温暖化否定派のホープ、マーク・モラノの逆襲

クライメートゲートの発覚で、温暖化は「国連の捏造」という主張がにわかに勢いを増している

2009年12月16日(水)18時00分
イブ・コナント(ワシントン支局)

真実はどこに? 12月14日、コペンハーゲンでCO2削減や社会正義の実現を求めて抗議する人々 Christian Charisius-Reuters

 地球温暖化に懐疑的な立場で知られるジム・インホフ米上院議員(共和党)の広報担当を長年務めていたマーク・モラノは、今年になってその職を辞し、「クライメート・デポ」というウェブサイトを立ち上げた。「地球温暖化は心配に及ばない」という持論を証明する情報を集めて紹介するサイトだ。

 インホフの下で働いていた時期のモラノは、広報担当というより通信社のような存在だった。気候変動問題に関心のある記者たちに毎週、ときには毎日のように大量のメールを送信した。送り先は5000人に上った。

 私のメールボックスにはほとんど常にモラノからのメールがあるが、私が特別というわけではない。ニューヨーク・タイムズ紙も、モラノが多くの記者に送っていた「嵐のメール」について記事を書いたことがある。

テレビやラジオで引っ張りだこ

 そのしつこさのおかげだろうか、モラノには影響力があった。さらに先月、気候変動の研究者たちの私的なメールが大量流出し、地球温暖化説に反するデータを隠していた疑惑が浮上。この「クライメートゲート」騒動を機に、モラノには今まで以上に注目が集まっている。
 
 私(と多くの記者たち)のもとに12月11日に届いた大量のメールの一つによれば、モラノは現在、気候変動問題の「グラウンド・ゼロ(中心地)」、つまり国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)が行われているコペンハーゲンにいる(「(温暖化どころか)めちゃくちゃに寒いよ」と、モラノは書いてきた)。

 流出したメールを検証した複数の記事によれば、一部の科学者が倫理に反する意見交換をしていたのは事実だが、地球温暖化が人為的なものだという科学的合意が捏造されていたわけではなさそうだ。

 それでもモラノは最近、BBCやCNNなど多くのニュース番組やラジオ番組に出演しており、「活気と敵意に満ちた議論」をしているという。保守派ラジオ番組のホストを務めるラッシュ・リンボーも、モラノのファンの一人。先月は、期せずしてモラノのサイトを一時閉鎖に追い込んでしまった。「モラノは自分ひとりの力で、誰よりも見事に現状への警鐘を鳴らしている」と番組で称賛し、サイトをチェックするようリスナーに呼びかけたため、アクセスが殺到してパンクしてしまったのだ。

石油メジャーが資金提供

 マザー・ジョーンズのような左派系メディアは、「最も人気の高い温暖化否定サイト」かもしれないとしてモラノの動向に目を光らせている。「クライメート・デポは150万ドルの予算をもつ非営利団体『建設的な未来のための委員会』から資金援助を受けている。そしてこの非営利団体は、石油大手のエクソン・モービルやシェブロン、保守派の富豪でビル・クリントンの宿敵だったリチャード・メロン・スケーフから資金を受けている」と、記者のジョッシュ・ハーキンソンは指摘する。

 クライメート・デポの注目度は高まるいっぽうだ。リベラル派のニュースサイト「デイリー・ビースト」は、クライメート・デポのアクセス数が「保守系ブログを代表する人気サイト、レッドステート・ドットコムを上回ったことがある」という他紙の報道を引用している。

 モラノはこの状況を楽しんでいる。「クライメートゲート疑惑を長い間無視してきた主要メディアに感謝したい。おかげで温暖化肯定派の干渉を受けることなく、その問題点を整理し、国民に情報を提供できた。クライメートゲート疑惑の発覚は、国連が『捏造』した科学的合意に対する反論を聞いてもらおうと長年苦心してきた多くの懐疑派にとって大きな喜びだ」

 今後も現状が続くことを望むと、モラルは言う。「主要メディアには、今後もクライメートゲート疑惑を無視し続けてほしい。そうすれば、我々の手で最も正確でバランスの取れた反論を提供し続けることができる」

 とはいえ、温暖化に否定的な意見は最近、大きな関心を集め始めている。そのなかで、モラノがたちまち懐疑派の中心人物に押し上げられるのは間違いない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック小幅続落、メタが高

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、156円台前半 FRB政策

ビジネス

FRB、準備金目標範囲に低下と判断 短期債購入決定

ビジネス

利下げ巡りFRB内で温度差、経済リスク綿密に討議=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中