最新記事

追悼マイケル・ジャクソン

泥にまみれたピーターパン

マイケル・ジャクソンが少年への性的虐待容疑で逮捕。病床で癌と闘う少年が倒錯愛の「被害者」になるまで

2009年6月26日(金)17時58分
デービッド・ジェファソン(ロサンゼルス支局長)、アンドルー・マー(ロサンゼルス)

容疑者 保釈金を払って保安官事務所を出るジャクソン(中央、03年11月20日) Robert Galbraith-Reuters

 その男の子は、ハリウッドのある病院のベッドに寝ていた。腹部を腫瘍に冒され、死の宣告を受けていた。

「あと2週間の命だと、医師たちに言われた」と、ジェーミー・マサダは言う。コメディークラブのオーナーのマサダは、恵まれない子供たちのためにサマーキャンプを主催しており、ソーシャルワーカーの紹介でキャンプに参加したこの少年と親しくなった。

 少年に生きる意欲を与えたいと考えたマサダは、一つ約束をした。いっぱいご飯を食べて強くなったら、誰でも好きなスターに会わせてあげよう――。「あの子が会いたいと言ったのは、クリス・タッカーとアダム・サンドラー、それにマイケル・ジャクソンだった」と、マサダは言う。

 コメディークラブを経営するマサダには、コメディアンのタッカーとサンドラーを引っ張り出すのはお安いご用だ。しかし「ポップスの帝王」が相手では、どう話をもっていけばいいのか、まったく見当がつかなかった。

「知り合いという知り合いに電話をかけまくって、誰かマイケルを知っている人はいないかと尋ねた」と、マサダは言う。

少年と一緒のベッドで寝ていた

 マサダはついに、ジャクソンの自宅「ネバーランド」の電話番号を入手。関係者と電話で話すことができた。「どうかお願いです。その子は死にかけているんです」と、彼は頼み込んだ。

 その晩のテレビニュースで、男の子が紹介されるので見てほしいと、彼は言った。「もしマイケルが電話をして励ましてくれたら、心から感謝します」

 3年後の今、あんな電話なんかしなければよかったと、マサダは悔やんでいるにちがいない。

 癌との闘いに勝った少年(12)は、今また別の大きな闘いに直面している。複数の消息筋が本誌に語ったところによると、マイケル・ジャクソン(45)にかけられた性的虐待容疑で被害者とされているのがこの少年だ。

 消息筋によると、少年は「ネバーランド」を何度か訪れた際に、数回にわたって性的虐待を受けたと述べているという。ジャクソンが少年にワインを飲ませたという話もある。

 少年とジャクソンの親交が初めて公に知られたのは、今年2月。イギリスで放映されたドキュメンタリー番組で、2人は手をつないで登場し、少年と弟がジャクソンと一緒のベッドで寝たと語った。

 この段階では、少年もジャクソンも、性的な関係はなかったと主張した。少年の母親も、ドキュメンタリーが放映されて世の中が騒然となっているときに公の場に出てジャクソンを擁護した。

93年には和解金で刑事告発を回避

 しかし、ある時点で一家はジャクソンに近づくのをやめたと、母親は言う。きっかけとなったのは番組放映後、ジャクソン側が一家に中南米への移住をもちかけてきたことだと、一家の友人は本誌に語った。マスコミの取材攻勢から逃れるためだということだったが、一家のパスポートを用意するほどの念の入れようだった。「要は口を封じたかったんだ」と、この友人は言う。

 消息筋によると、司法当局が捜査に乗り出したのは、ジャクソンから受けた行為について、少年がセラピストに打ち明けたことが発端になった。

 弁護士のマーク・ジェラゴスはコメントを拒否している。ただし11月20日の逮捕後、ジェラゴスは詰めかけた報道陣に、少年の主張は「真っ赤な嘘」だというジャクソンの言葉を発表している。

 今回の容疑は、10年前に別の少年(当時13歳)に訴えられた嫌疑と驚くほどよく似ている。ただし、非常に大きな違いが一つある。今回の少年と母親は、ジャクソンに損害賠償を求めていない。

 93年、サンタバーバラ郡地方検事のトーマス・スネドンは、ジャクソンが13歳の少年に性的な行為を行ったという告発を受けて捜査に着手した。ところが、少年側はジャクソンと民事訴訟で和解し、2000万ドルともいわれる和解金を受け取ると、刑事捜査への協力を拒否。検察は刑事告発を見送らざるをえなかった。

 しかし今度は、刑事告発に持ち込む材料がある。前出の友人によると、母親は93年の民事訴訟で原告側の代理人を務めた弁護士と接触していたが、最終的には検察に協力する道を選んだ。少年は裁判で証言する意向を示している。

 それに、民事の和解という形で93年の事件に幕が引かれたことをきっかけにカリフォルニア州法が改正され、性的虐待の被害にあった子供が巨額の和解金を受け取って示談に応じることがむずかしくなった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

サムスン電子、第3四半期は32%営業増益へ AI需

ワールド

ベネズエラ、在ノルウェー大使館閉鎖へ ノーベル平和

ビジネス

英中銀、今後の追加利下げの可能性高い=グリーン委員

ビジネス

MSとソフトバンク、英ウェイブへ20億ドル出資で交
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中