泥にまみれたピーターパン
被害少年の母親も批判の的に
逮捕状の発行を発表したときのスネドンの強気な言葉は、単なる虚勢ではなかった。「さっさと戻ってきて、チェックインしなさい」と、スネドンは軽口を飛ばした。このときジャクソンは、先週発売された新しいベストアルバムのビデオ撮影でラスベガスに滞在していた。
ジャクソンは、子供たちと一緒にベッドで寝たことは認めているが、未成年者と性的な関係をもったことはないと主張している。
テレビドキュメンタリーの制作者マーチン・バシャーに、子供たちと寝るのは「正しい」ことだと思うかと尋ねられて、ジャクソンはこう答えた。「とても正しいことだ。とても愛にあふれた行為だ。いま世界に必要なのはそれだ。世界にはもっと愛が必要だ」
しかしこの行動は、子供の人権擁護のために活動している弁護士のグロリア・オールレッドの不安をかき立てた。オールレッドは21日、児童福祉当局に対し、ジャクソン自身の子供を保護するよう要請した。
子供の権利研究所のロバート・フェルメスによれば、このようなケースでは通常、子供の身柄保護が行われる。とりわけ、「自宅で幼い子供に対する性的虐待が行われた容疑がかかっている」場合には、そうした措置がとられることが多い。
ジャクソンは過去に、歌手のリサ・マリー・プレスリーと結婚して離婚。その後、デビー・ロウという看護師と再婚したが、離婚した。ロウとの間には、プリンス・マイケル1世(6)とパリス(5)という子供がいる(もう1人の子供プリンス・マイケル2世の母親は明らかにされていない)。
もっとも、自分の子供に対する接し方を非難されているのは、ジャクソンだけではない。子供たちを「ネバーランド」に泊まらせたことで、被害少年の母親に批判が集まっている。
この母親の元夫の代理人を務めるH・ラッセル・ハルパーン弁護士は先週、子供たちの養育権の奪還をめざす強い意思を示した。
債権者に狙われるネバーランド
親の目の届かない場所に外泊させたことで子供を危険にさらしたと、ハルパーンは非難する。「この事実だけでも、親としての義務を怠る不注意を犯しているといえる」と、彼は本誌に語った。
ハルパーンによると、この母親は過去に子供たちに裁判で嘘を言うよう言い含めたこともある。1度は、スーパーマーケットで転んでけがをしたと店側を訴えたとき。もう1度は、離婚訴訟で泥仕合を展開していたときだ(母親は子供たちとともに行方をくらましており、コメントは取れていない)。
しかし、父親の信頼性にも問題がある。一昨年には、妻に暴力を振るったという容疑に対して裁判で争わない旨を表明し、家庭内暴力のカウンセリングを義務づける判決を受けた。昨年は、子供に対する意図的な虐待の容疑で有罪を認めている。母親は裁判所に提出した書類の中で、「暴力は日常茶飯事だった」と述べている。
遊園地のような楽しい乗り物があって、子供好きの優しい主人が歓迎してくれる「ネバーランド」は、少年にとって天国に思えたとしても不思議ではない。
もっとも、ジャクソンの「おとぎの国」はしばらく前からほころびを見せはじめていた。癌に冒された少年をもてなしていたころ、彼はすでに「ネバーランド」に目をつけた債権者たちへの対応に追われていた。
純資産7億5000万ドルと伝えられたこともあったが、フォーブス誌によれば昨年は3億5000万ドルにまで減っていた。
裁判書類によると、ジャクソンは2000年末に銀行から2億ドルの融資を受けており、そのとき担保にしたのが、ソニーとの共同事業(ビートルズの曲200曲以上の出版権などを保有)の権利だった。音楽業界では、訴訟費用がかさむなどして経済的苦境が続けば、この事業の持ち分(ジャクソンは半分)をソニーに譲渡することになるのではないかという観測が広がっている。
アルバムの売れ行きにも陰り
音楽活動による収益も、最近は振るわない。制作費3000万ドルともいわれる一昨年のアルバム『インヴィンシブル』の米国内での売り上げは、調査会社ニールセン・サウンドスキャンの調べによると210万枚どまり。普通で考えれば立派な数字だが、82年の大ヒットアルバム『スリラー』の10分の1にも満たない。
被害者の少年をジャクソンと引き合わせたマサダは、死期が迫った少年の夢をかなえるために自分が取った行動について、考えずにはいられない。「子供をライオンに差し出したのかもしれないなんて、考えただけでぞっとする」と、彼は腹立たしげに言う。
「善意の行動は裏目に出るもの」。マサダにぴったりなのは、こんな格言かもしれない。
[2003年12月 3日号掲載]