最新記事
考古学

エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明かす意外な死の真相

Mummy’s Dark Secret

2024年10月11日(金)10時50分
イアン・ランドル(本誌科学担当)

脳も肺も肝臓もそのまま

サリームはCTスキャン、走査電子顕微鏡、X線回析などの技術を駆使して、ミイラを「バーチャル解剖」した。するとミイラには防腐処理のための切開痕がなく、脳や肺、肝臓などの臓器がそのまま残されていたことが判明した。

この女性が生きていた新王国時代(前1570~前1070年頃)には、腐敗の速い臓器を埋葬時に取り除き、壺やチェストに入れて別々に保存していた。ただし心臓だけは残された。古代エジプトで心臓は、人格と知性、記憶の源と信じられていたためだ。

女性はこの防腐処理を受けていなかったのに保存状態が良好であるため、サリームは「別のミイラ化の方法」が使われたのかもしれないと言う。「この情報はミイラ化に関する従来の知識を修正し、新たな視点をもたらす」

公式には「CIT8」の記号で知られるこのミイラは、1935年にニューヨークのメトロポリタン美術館がエジプトに遠征した際、ルクソールに近いデル・エル・バハリの共同墓地で発掘された。

このとき考古学者らは、エジプト第18王朝(前1550~前1292年頃)の建築家だったセネンムト(センムト)の墓を発掘していた。第18王朝は古代エジプトが隆盛を極めた新王国時代の最初の王朝。セネンムトは女性ファラオのハトシェプスト(在位・前1479~前1458年)に家令として仕え、彼女の愛人だったという説もある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英住宅ローン融資、3月は4年ぶり大幅増 優遇税制の

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ビジネス

アルコア、第2四半期の受注は好調 関税の影響まだ見

ワールド

英シュローダー、第1四半期は98億ドル流出 中国合
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中