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セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日

2026年1月25日(日)07時00分
柾木博行(本誌記者)

では、セーターはどこへ行くのか。Yさんの答えは「消える」ではなく「嗜好品化」だった。
「ファッションとしてある程度お金があって本当に好きな人だけが買うみたいな、かなりニッチな商品になっていて、昔のようにシャツの上にセーターを着ることはすごく少なくなっています」

さらにYさんは、いまの服選びを「肌触りの時代」だと解説する。ヌメっとした感触、ふわっとした柔らかさは、化繊のほうが作りやすい。若い世代が惹かれる"ふわもこ"は、ニットではなく、フリースの発展形のような素材のカットソーが得意なところだ。モヘアやアンゴラが担っていた触感の贅沢は、価格と手入れが壁となって日常から遠ざかり、それを化繊が埋めた──Yさんの見立ては、そんな構図を指している。

天然素材は「別の席」で生き残る──メリノウールという存在

冬山でメリノウールの登山用ウェアを着た登山家

吸水性が高い一方で、乾燥がゆっくりなメリノウールは暖かく汗冷えしにくいため登山用ウェアに使われることが多い africa_pink - shutterstock

Yさんはウール100%の「自然の良さ」を認めつつも、現実の壁を強調する。
「ウール100パーセントって気持ちいいですけど、洗うとすごく縮んじゃう。やはりお手入れの手間があるかないかが結構ポイントかなと思います」

ただし、天然素材がただ負けているだけでもないという。天然の価値はある。しかし、日常のコットンの代わりにはなりきれない。だから市場は二極化していく----Yさんはそう見る。ひとつは、質感や"編まれた気配"を楽しむファッションとしてのニット。もうひとつは、メリノウールなどをタートルネックのセーターとして使うパターンだ。
「タートルネックのセーターっていうのは必ず一定の売り上げは絶対担保できるんですよ。フリースではやっぱり真似できないから」

セーターが"防寒の主役"を降りた一方で、ウールの一部は、別の実用の席──きちんと見えて、肌にもやさしい──を確保している。

セーターは消えたのではない。役割が変わっただけだ

地球温暖化が叫ばれる昨今だが、冬になれば寒波が来る。大寒ともなればしっかりと寒い。それでもセーターが当たり前ではなくなったのは、冬の暖かさが分解され、移動したからだ。フリースが外側の防寒を軽くし、機能性インナーが内側で体温の土台をつくる。暖かさの主戦場がインナーとフリースへ移ったとき、セーターは"暖を取る道具"としての責任を降ろし、好みと質感の服になっていく。

「冬になったからセーター買わなきゃっていう感じがないかも」
Yさんのこの一言に、いまの冬服の地図が凝縮されている。暖かさは、インナーとフリースとダウンの担当となった。セーターは、そのぶんだけ"着る理由が必要な服"になった。温かさの道具から、好みと質感と気分の服へ。セーターが消えたのではない。居場所が変わったのだ。


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