最新記事
ファッション

セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日

2026年1月25日(日)07時00分
柾木博行(本誌記者)

「冬の定番」となったフリース

今やセーターに代わって「冬の定番」となったフリース photoAC

先に冬を変えたのは、「フリース」だった

「インナー革命」を考えると、つい機能性肌着をイメージしがちだ。けれど、日常の冬服を先に書き換えたのは、肌着よりもフリースだったのではないか。

フリースは、セーターが苦手だったことを、ほぼ全部うまくやってのける。軽い。乾きやすい。縮みにくい。洗濯機で洗える。毛玉はできるが少ない。こうした "扱いやすい"という一点で、セーターの優位を奪っていった。暖かさの総量を競うだけなら、セーターが勝てる日もあるだろう。だが日常の生活は、暖かさだけで回っていない。手間、時間、洗濯、取り回し。そういう小さな現実が、冬の定番を決めてしまう。

そして「フリースが冬の定番」になったとき、セーターは"なくても困らない服"に一歩近づいた。

暖かさは「肌」から──吸湿発熱インナーの登場

2000年代、暖かさの主戦場はさらに内側へ移る。セーターやコートで"空気を溜める"のではなく、肌側の一枚で体温の土台をつくる。吸湿発熱のインナー群が、生活の標準装備として浸透していった。

吸湿発熱の発想自体は、ユニクロ以前から芽が出ていた。スポーツやアウトドアの世界では、汗と冷えの問題が切実だからだ。体を動かすほど汗をかき、止まった瞬間に冷える。その落差を埋めるため、肌着の機能が磨かれていく。ミズノの「ブレスサーモ」が、90年代後半からアウトドア用アンダーウエアとして展開されてきたことは象徴的だ。

ただし「技術がある」ことと「街の標準装備になる」ことの間には距離がある。ここで強いのが、大量供給の力だ。機能が"わかりやすい言葉"になり、買い足せる価格になり、毎年同じように店頭に並び、家の洗濯機で回せる。ユニクロは「ヒートテック」でこれを実現。こうして吸湿発熱は、特別な装備ではなく「冬の肌着の常識」になっていった。

結果として、セーターは"暖かさの責任"を少しずつ降ろしていく。インナーで暖を取れるなら、外側は別の役割を担えるからだ。

「二季化」と「ストリート化」

もうひとつ、セーターの居場所を狭めた要因がある。季節の感覚と、街の服装だ。
温暖化の影響で暑い時期が長く、寒い時期が短くなれば、「セーターがちょうどいい」期間は少なくなる。しかも今のファッションはストリート寄りだ。ルーズなトップス、スウェット、ダウン。これだけで冬のカジュアルファッションが成立する。気がつけばセーターを"中に着込む"必要はなくなっていた。

インナーで土台をつくり、ミドルはフリースやスウェットで回し、最後にアウターで風を防ぐ。冬のスタイルがこの形へ寄れば寄るほど、セーターは「必需品」から外れていった。

業界のベテランが語る"アパレルの本音"

「セーターは明らかに減っています。ニットの売り上げそのものがかなりダウンしていて、アパレルメーカーも買い付けが減りました」

こう語るのは欧州系グローバルブランドの元商品担当(MD)Yさん。ニットの売上が減った理由としてYさんが真っ先に挙げたのは機能性インナーではなく、フリースだった。
「絶対的にフリースの登場が影響していると思います。フリースを着て、その下はTシャツでいいっていう感覚が広がった」とYさんは語る。セーターが担ってきた"温かさ"をフリースが置き換え、さらに生活の型まで変えた。決定打は「お手入れ」だという。

「ニットって洗剤をガツガツ入れて洗濯機で洗うっていう感じではないですよね。ウール100パーセントの服を洗濯機に入れて普通に洗うと絶対縮むし、毛玉もできるし」
縮み、毛玉、洗濯表示の確認、クリーニング代。忙しい生活のなかで、その手間は"敬遠される理由"になる。フリースはその面倒を、ほとんど丸ごと引き受けてしまった。

さらに気候と街のファッションも、セーターに追い打ちをかけた。
「今、四季じゃなくて"二季"の時代になったので、Tシャツを着る時期が、3月から下手したら11月ぐらいまで続きますよね。冬はそれをトレーナーに変えるっていうパターンになってきています」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、中国との貿易協定巡りカナダに警告 「1

ワールド

アングル:中国で婚姻数回復傾向続く、ドレス業界が期

ワールド

ウクライナ2都市にロシアが攻撃、和平協議直後

ビジネス

乳児ボツリヌス症の集団感染、バイハート社の粉ミルク
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 3
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投稿したアメリカを嘲笑する動画にネット爆笑
  • 4
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 5
    サーモンとマグロは要注意...輸入魚に潜む「永遠の化…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 8
    トランプを支配する「サムライ・ニッポン」的価値観…
  • 9
    「これは違法レベル...」飛行機で「史上最悪のマナー…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 4
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 9
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 10
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中