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うつ病リスクが高い4つの仕事――性格ではなく「環境」が原因だった

2025年9月19日(金)10時57分
高橋倫宗(精神科医)鬼頭智美(臨床心理士)*PRESIDENT Onlineからの転載

1970年代頃からはうつ病の人の脳脊髄液を調べる研究が始まり、セロトニンという物質が少なくなっていることが報告されるようになりました。

セロトニンとは、脳の中で分泌される神経伝達物質の一つです。1980年代にはセロトニンを増やす作用を持つSSRIという薬が開発され、実際にうつ病を改善させることが証明されました。

その結果、「うつ病は脳の中のセロトニン分泌が低下した状態」という考え方が主流になったのです。


後にこうした心理学と脳科学の知見を統合して、「自尊心を失うようなストレスによって脳がダメージを受け、セロトニン分泌が低下し、うつ病を発症する」という、うつ病の発症モデルが提唱されるようになりました。

現在精神科では、このモデルをもとに治療が行われています。

1年間で半数の人が再発する

さらに、研究(『カプラン臨床精神医学テキスト』)では「うつ病を一度発症すると、脳がダメージを受けて症状の改善後も見えない後遺症が残る」と考えられています。

この場合の後遺症とは、脳がストレスに敏感になっている状態です。ちょっとしたストレスからスイッチが入ってしまい、再びセロトニン低下が起こります。うつ病が何かのきっかけで再発を繰り返してしまう(※)のはこれが理由です。

※筆者註:症状が落ち着いてから1年間は、再発が最も多い期間です。 労働政策研究・研修機構「第2回日本人の就業実態に関する総合調査」結果(2014)によれば、「ほぼ半数の人が再発する」と言われています。

また認知心理学の分野では、「特徴的な思考パターンにうつ病の原因がある」と考えます。

子供の頃に親との離別、虐待、いじめなどの不幸な体験をすると、自尊心が傷つき、すべての物事をネガティブにとらえてしまうようになります。「自分は必要のない人間だ」「社会は不公平だ」「未来に希望はない」といった思考パターンを知らないうちに身につけてしまうのです。これを「認知の歪み」と呼びます。

大人になっても、すべての物事をこのネガティブな思考の枠組みでとらえようとするため、うつ病の発症や再発につながってしまうこともあります。

「真面目な人がなりやすい」のウソ

Q2 うつ病になりやすい人の特徴を教えてください。


A うつ病はすべての人がなりうる病気です。自分の個性と環境との相性が合わないことからうつ病を発症します。そのため、特定の傾向がある人がうつ病になることはありません。

うつ病の認知が現在ほど広がる前には、うつ病になりやすい人には何か特徴があるのではないかと考えられていました。

例えば、真面目で人への気遣いが強い「メランコリー親和型性格」、負けず嫌いで凝り性な「執着性格」、気分の浮き沈みが激しい「循環性格」、こだわりが強く何事にも完璧さを求める「完全主義性格」などです。

ところが、その後の研究によると、強いストレスにさらされると、どんな人でもうつ病になる可能性があることが分かってきました。「特定の性格だからうつ病になる」ということは一概に言えないのです。

ましてや「心が弱いからうつ病になる」ということはありえません。

うつ病になるのは、その人の個性が問題なのではありません。個性と環境との相性が合わないことから、ストレスを感じてしまうのです。合わない職場で働いたり、合わない学校に通い続けたりしたら、個性は生かされないどころか、否定されるようなことばかりが起こります。そうしたストレスが、うつ病を発症する引き金になります。

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