最新記事
山登り

「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道で自然を楽しむ新しい休日のカタチ

2025年7月3日(木)14時20分
佐々木 俊尚(ジャーナリスト、評論家)*PRESIDENT Onlineからの転載

頼りになるグーグルマップ

公共交通機関の場合には、制限はずっと大きくなる。ゴール地点とスタート地点を同じにする必要はなくなるが、それ以上に非常に難儀するのが、路線バスの停留所などを探し、必要な時間にバスが走っているかどうかを確認することだ。

近年は山あいの町や村はどこも過疎化でバスに乗る人が少なくなり、賃金の低いバス運転手の仕事に就いてくれる人も少なくなり、バス路線が廃止されてしまうケースが増えている。「たしか一〇年前に行ったときにはバスがあった」と気楽に構えていると、そんなバスはとっくになくなってしまっていた......ということをわたしは何度も経験した。

登山地図などで「ここから歩こう」とスタート地点を設定したら、そのスタート地点に向かうための公共交通機関をどう調べるか。

いちばん手っ取り早いのは、グーグルマップのような地図アプリで経路検索することだ。グーグルマップはとても良くできていて、地方の市町村が運行している小さなコミュニティバスまでちゃんと調べてくれて、何時のバスにどこで乗ってどこで一五分待って別のバスに乗り換えて、といったところまで表示してくれる。


工夫次第でルートの選択肢は広がる

とはいえ、グーグルマップも万能ではない。集落があり近くにバス停があるようなところなら経路検索が可能だが、日本の国土の七五パーセントは山や丘陵で、六七パーセントは森である。

人の住んでいないところが膨大に広がっている。最寄りのバス停や鉄道駅から徒歩一時間を超えるような場所だと、経路検索しても「乗換案内を計算できませんでした」とすげなくグーグルに断られてしまう。

そこで、もう少し人里に近いところにスタート地点を設定し、そこまでの経路をグーグルで検索し直してみて、ということを繰り返して交通機関を調べることになる。

山を歩くのに慣れてくると二時間ぐらい歩くのは苦ではなくなるので、スタート地点を人里側に後退させ、なるべく公共交通機関でたどり着ける終点のバス停などから歩くといった工夫が必要になる。ただし全体のコースタイムをあまりに長くするとそれはそれでたいへんだ。

だからその日一日に自分がどのぐらい歩けるのかという全体を計算しつつ、スタート地点へのアプローチの距離のバランスをとるといった細かい計算が求められる。

このあたりは面倒は面倒なのだが、実のところわたしはパソコンの前でバス停を探しながら、ああでもないこうでもないと調べているときが案外楽しい。現場に行かずに殺人事件などをあれこれ推理するアームチェア・ディテクティブ(安楽椅子探偵)というミステリー用語があるが、さしずめアームチェア登山というところか。

ここまで、フラット登山のコースをどのように計画するかを説明してきた。「穂高岳に登る」「高尾山に登る」といった一般的な登山とはまったく異なり、登山地図やグーグルマップ、各種のウェブサイトなども駆使して、自由に地図上にルートをつくっていく。

アクセス手段まで考えなければならず、組み立てはけっこうたいへんだが、このコースの選定自体が実はたいへん面白い遊びだということが、わかっていただけるのではないかと思う。

newsweekjp20250703044330.jpg佐々木俊尚『歩くを楽しむ、自然を味わう フラット登山』(かんき出版)(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg

ニューズウィーク日本版 台湾有事 そのとき世界は、日本は
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年8月26日号(8月19日発売)は「台湾有事 そのとき世界は、日本は」特集。中国の圧力とアメリカの「変心」に強まる台湾の危機感。東アジア最大のリスクを考える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

印ロ外相がモスクワで会談、貿易関係強化で合意 エネ

ビジネス

利下げ急がず、労働市場なお堅調=米カンザスシティー

ビジネス

米新規失業保険申請1.1万件増の23.5万件、約3

ワールド

ノルドストリーム破壊でウクライナ人逮捕、22年の爆
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精神病」だと気づいた「驚きのきっかけ」とは?
  • 2
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自然に近い」と開発企業
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 5
    夏の終わりに襲い掛かる「8月病」...心理学のプロが…
  • 6
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 7
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 8
    米軍が長崎への原爆投下を急いだ理由と、幻の「飢餓…
  • 9
    ドンバスをロシアに譲れ、と言うトランプがわかって…
  • 10
    フジテレビ、「ダルトンとの戦い」で露呈した「世界…
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中