最新記事
BOOKS

分かり合えなかったあの兄を、一刻も早く持ち運べるサイズにしてしまおう...映画化が決まった実話

2025年5月1日(木)11時30分
村井理子

弔いの金策...しないわけにはいかない

「それでは5日まで塩釜署にてご遺体はお預かりします。ご自宅でお亡くなりになったということで、死体検案書という書類をお医者様に作成して頂いています。この書類は、お兄様の戸籍抹消と、埋葬や火葬のために必要な書類です。この作成費用が5万円から20万円かかります。先生によってお値段が違いまして......いずれにせよ、ご遺体の引き渡しの際にこちらのお金がかかって参りますので、少し多めにご準備頂ければと思います」

死体検案書という言葉も初めて聞いたが、その値段が医師によってそんなにも幅があるとは驚いた。混乱しながらも、頭のなかではすでに金策がはじまっていた。じわじわと不安が広がるのがわかった。自分にとってはかなりの金額を短期間で用意する必要があることに気づいたからだった。


「それでは塩釜署でお待ちしております」と言いつつ、電話を切りそうになっている山下さんに慌てて質問した。

「兄の息子なんですが、今どうしているんですか?」
「息子さんは児童相談所が保護しています。明日以降、児童相談所からも連絡が行くと思いますのでよろしくお願いします」

そして山下さんが急に思い出した様子で、今度は私にこう聞いた。
「あ、こちらの葬儀屋さんとかご存じです?」


村井理子(むらい・りこ)

翻訳家/エッセイスト 1970年静岡県生まれ。滋賀県在住。ブッシュ大統領の 追っかけブログが評判を呼び、翻訳家になる。現在はエッセイストとしても活躍。

著書に『兄の終い』『全員悪人』『いらねえけどありがとう』『訳して、書いて、楽しんで』 (CCCメディアハウス)、『家族』(亜紀書房)、『義父母の介護』(新潮社)、 『ある翻訳家の取り憑かれた日常』(大和書房)他。訳書に 『ゼロからトースターを作ってみた結果』『「ダメ女」たちの人生を変えた奇跡の料理教室』(新潮文庫)、『ラストコールの殺人鬼』(亜紀書房)、『射精責任』(太田出版)他。

◇ ◇ ◇

兄を持ち運べるサイズにPOP※映画『兄を持ち運べるサイズに』:公式サイト

『兄の終い』書影
『兄の終い』
村井理子[著]
CEメディアハウス[刊]

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

ニューズウィーク日本版 日本人と参政党
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月21日号(10月15日発売)は「日本人と参政党」特集。怒れる日本が生んだ参政党現象の源泉にルポで迫る。[PLUS]神谷宗幣インタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

過度な為替変動に警戒、リスク監視が重要=加藤財務相

ワールド

アングル:ベトナムで対中感情が軟化、SNSの影響強

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 6
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 7
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 8
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 9
    ビーチを楽しむ観光客のもとにサメの大群...ショッキ…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中