最新記事
医学

マジックマッシュルームの「幻覚成分」が依存症治療に役立つ!? PTSDの治療にも...ただし効果は「オス」限定か

MORE THAN JUST A HIGH

2024年9月20日(金)17時22分
ジェス・トムソン(科学担当)
並べられたキノコ

マジックマッシュルームの効果の「性差」については今後の研究が待たれる CANNABIS-PIC/ISTOCK

<「幻覚キノコ」を使った治療に期待が高まるが、マウスでの実験ではオスとメスで効果に大きな差が見られた──>

マジックマッシュルームはハイにさせるだけでなく、治療に役立つ「効能」があるかもしれない。一部の幻覚成分が精神疾患の治療に有望であることは、既に研究が示唆している。

【動画】万華鏡の中みたい...マジックマッシュルームで見える幻覚の世界

さらに、2023年11月の米神経科学学会で発表された複数の研究によると、シロシビン(マジックマッシュルームに含まれる幻覚を引き起こす有効成分)が、恐怖学習(特定の刺激と恐怖を関連付ける反応の獲得)や依存症の禁断症状に影響を与える可能性があるという。


例えばある研究によると、ニコチン依存症の治療に効果的かもしれない。

脳内の神経伝達物質セロトニンの受容体を発現しないよう遺伝子を組み換えたニコチン依存のマウスにシロシビンを投与しても、ニコチンの禁断症状に変化はなかった。だが、遺伝子を組み換えていないマウスには禁断症状の軽減が見られた。

「これらの初期研究は、昔から知られている幻覚成分が禁煙治療に有効かもしれないことを示唆している」と、論文は述べている。

低用量の投与で違いが

別の複数の研究ではシロシビンと、やはり幻覚作用のある化学化合物のジメチルトリプタミン(DMT)には抗鬱作用がある可能性と、恐怖記憶の再燃を軽減する効果が示された。

これは恐怖症やPTSD(心的外傷後ストレス障害)など、恐怖に関連する精神疾患の治療にとって意義があるかもしれない。

マウスを使った実験では、恐怖学習の速さや、学習した恐怖が危険を取り除いた後に消える速さについては、シロシビンは直接の変化をもたらさなかった。ただし、オスのマウスはメスに比べて恐怖の再発率が低かった。論文の要旨は次のように述べている。

「生理食塩水とシロシビンをそれぞれ投与したマウスでは、恐怖の獲得または消滅に伴うすくみ反応(大きなストレスを受けて活動停止状態になること)に違いはなかった」

「シロシビンを投与したオスのマウスは恐怖の再発が軽減したが、メスにはそうした変化が見られなかった」

別の研究でも低用量のシロシビンを投与すると、オスとメスのマウスで恐怖の消去の強さが異なった。

実験では、マウスに電気ショックと音の関連付けを学習させ、音に反応して恐怖を感じるようにさせた。続いて電気ショックを取り除き、音から恐怖を連想しなくなるまでの時間を測定した。

その結果、シロシビンを投与したオスは投与する前に比べて、音に関連する脅威がなくなったことを早く学習したが、メスは反対に学習が遅くなった。

「これらの知見は、低用量のシロシビンはオスの恐怖消去の学習効果を補強するが、メスでは補強しないことを示唆している」。今後は、性別による違いについてのさらなる研究が待たれる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

金価格、来年4900ドルに上昇へ 銅値固め・原油は

ワールド

外国人の米国債保有額、10月は2カ月連続減 中国が

ワールド

全国コアCPI、11月は+3%で伸び横ばい エネル

ワールド

TikTok米事業、売却契約を締結 投資家主導の企
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中