最新記事
自己啓発

バカに悩まされ説教しようとするあなたもバカ「価値観の違う相手に方言で話すようなもの」

2023年5月8日(月)18時00分
マクシム・ロヴェール(作家、哲学者) *PRESIDENT Onlineからの転載

説教をしても効果はない

だとすれば、実は説教めいた態度には合理的な根拠がない可能性もありますが、まずは、こうした態度を取っても、とにかく効果はないということを明らかにしたいと思います。

みなさんは次の文を、自分がバカに言われたと思って、あらためて読んでみてください。

「もうこんなことはダメだぞ。おれがどうこうじゃなくて、道徳上の義務を教えてやってるだけ」

どうですか? 痛くもかゆくもないでしょう。

虚言癖がある人の嘘の話を聞くのと少し似ています。あなたは相手が説教をしてくるのを、言わせておいても聞いてはいません。相手の話には真実のかけらもないと思っています。

したがって、説教は、現実の問題の答えとしては不十分だと認めなければなりません。ここでは、話者の間でお互いへの信頼が失われていることが問題です。

相手が、本当のことや、自分が受けいれられることを言えるだろう、という信頼がないのです。これは決定的に重要な点です。

たとえば、鳥が木の枝に止まっているように、言葉が木の枝にのっているとしたら、その枝が、バカの存在とバカの落ち度によって折れてしまっているようなものです。

より正確に言えば、人の対話の中にある何かに、ロックがかけられているのです。そのロックは、コミュニケーション機能が働かないようにすると同時に、相手への信頼という、ちょっとしたやり取りにおいても基本となるルールを無効にします。

説教をすれば、この信頼がないという問題を、最初の一回くらいは避けて通ることができます。

話し手は、自分の言っていることは自分の管轄下にはないので、自分のことを一切信頼していなくてもこの話を受けいれていいのだと、相手に示唆しているわけです。こう言っているのと同じです。

「道徳上のルールというものが本当にあって、それを作っているのはおれじゃないけど、そのルールでは、ああいうふるまいやこういうふるまいは禁止だから」

よく考えてみると、話し手は、説教めいた態度を取ることによって、自分の発言への関与を、かなり巧妙に隠しています。

実際、どちらも相手の言い分にもはや耳を傾けようとしない状況で、コミュニケーションを復活させるためには、自分の発言ではないふりでもするしかありません。

説教がうまくいかない理由

では、なぜ説教めいた態度を取っても、これほどまでにうまくいかないのでしょう?

理由はふたつあります。まず、その説教が正しいとする根拠が全くありません。それに、説教という方法を取ること自体が、話者間の信頼が失われていることの反映でしかないのです。

したがって、説教という形は何の役にも立ちません。バカはあなたが理屈を並べて認めさせようとしていることについて、一切知ろうという気がないのです。そもそも向こうは、あなたの理屈を全く理解できません。

こうして、信頼の危機は、説教の正当性を争う戦いになります。説教の正当性についてもめるなら、当然、説教の中身の受けとり方についても、もめることになります。その結果、説教は、表面的には品位と徳があっても、問題の場所を移すだけで、解決しないのです。

編集部よりお知らせ
ニューズウィーク日本版「SDGsアワード2025」
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、一時150円台 米経済堅調

ワールド

イスラエル、ガザ人道財団へ3000万ドル拠出で合意

ワールド

パレスチナ国家承認は「2国家解決」協議の最終段階=

ワールド

トランプ氏、製薬17社に書簡 処方薬価格引き下げへ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 9
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中