最新記事
ダイエット

運動するほど基礎代謝が落ちる!? 最新研究でわかった「本当にやせられるダイエット」とは......

2023年4月21日(金)17時10分
生田 哲(科学ジャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載

ホール博士は、効果的にやせる方法を思案していた。なぜ、ダイエットに失敗するのか? 厳格なカロリー制限によって体重が急激に減少すると、筋肉を失うため、基礎代謝が著しく低下し、体が燃やすエネルギーが減少するからではないのか?

そんなある日、ホール博士の脳裏に、こんな仮説が浮かんだ。厳格なカロリー制限をするだけでなく、それと同時に激しい運動をすれば、筋肉を保つことができるので、基礎代謝を維持できるのではないか、と。

(*2)Hall KD. Energy compensation and metabolic adaptation: "The Biggest Loser" study reinterpreted. Obesity, 23 November 2021 PMID: 34816627

筋肉量に関わらず基礎代謝は低下していた

この仮説を検証するために、ホール博士と彼の仲間はふたつのグループを比較した(*3)。

ひとつは、胃バイパス手術を受けて摂取カロリーを減らすことによって体重を大幅に落とした男女16人。もうひとつは、激しい運動と厳格なカロリー制限をすることで体重を大幅に落とした「The Biggest Loser」の競技者16人。結果はこうなった。胃バイパス手術のグループは、脂肪だけでなく筋肉量も低下していたが、「The Biggest Loser」の競技者グループは主に脂肪量だけが落ち、筋肉量は維持されていた。ここまでは予測通りである。

しかし意外な発見があった。それは、基礎代謝は筋肉量の多少にかかわらず、全員がほぼ同じだけ低下していたことである。驚くべき結果である。筋肉量が維持される、維持されないに関係なく、基礎代謝はほぼ同じだけ低下していた。

体重が低下したときに基礎代謝が低下することを「代謝適応」と呼んでいる。代謝適応は生物が生き残るためのしくみであるため、必ず起こる。しかも、代謝適応は体重が低下してから数年も続くと考えられている。それなら、「The Biggest Loser」の競技者は、数年後も、基礎代謝が低下した状態のままなのか?

そこで番組の収録が終わって6年後に、競技者の低下した基礎代謝が回復していることを期待して、同じ人たち14人を再調査した(*4)。

(*3)Knuth ND et al. Metabolic adaptation following massive weight loss is related to the degree of energy imbalance and changes in circulating leptin. Obesity, 2014 Dec; 22(12):2563-9. PMID: 25236175
(*4)Fothergill E et al. Persistent metabolic adaptation 6 years after "The Biggest Loser" competition. Obesity, 2016 Aug; 24(8):1612-9. PMID: 27136388

基礎代謝がもっとも低下した人は、もっとも運動した人

結果は、「厳格なカロリー制限+激しい運動」をやめてから、たいていの競技者は、体重が増え、基礎代謝も上昇していた。基礎代謝の上昇した程度は、体重の重い人は軽い人よりも顕著であった。だが、彼らの基礎代謝は、番組に参加する前にくらべ、平均500kcal/日も低かった。

その翌年追跡調査が行われ、こんな結論が得られた。競技者の体重の増加について、運動した人は運動しなかった人にくらべ、やや少なかった。たとえば、ほぼ毎日80分間運動した人は、あまり運動しなかった人にくらべ、体重増加は2~3kg少なかった。要するに、運動は体重にそれほど影響しないという結論になる。しかも、運動しても基礎代謝は上昇しなかった。じつに、基礎代謝が相対的に最も低下したのは、最も運動した人なのである。

この結果に面食らわない人はいないだろう。ホール博士もひどく困惑した。困惑しないはずがない。運動する理由は筋肉をつけて基礎代謝を高めるためとされているが、実際には運動すると基礎代謝が低下するというのだから。運動する意味はどこにあるのか、ということになる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

香港取引所、東南アジア・中東企業の誘致目指す=CE

ワールド

米ミネソタ州議員射殺事件、容疑者なお逃走中 標的リ

ワールド

IEA、石油供給不足なら備蓄放出の用意 OPEC「

ワールド

金価格約2カ月ぶり高値、中東紛争激化で安全資産に逃
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中