最新記事

日本社会

「名前覚えたからな。夜道、気をつけろ」 ゴネ得知る迷惑客がコールセンターで執拗に食い下がるワケ

2022年6月12日(日)16時40分
吉川 徹(元コールセンター従業員) *PRESIDENT Onlineからの転載
暗がりでスマホをもつ謎の男のイメージ

写真はイメージです satamedia - iStockphoto


携帯電話料金を延滞すると「利用停止予告」が送られてくる。予告書には電話番号が書かれており、コールセンターには、さまざまなお客から「支払い延期の依頼」の電話がかかってくる。一体どんなやりとりが繰り広げられているのか。実録ルポ『コールセンターもしもし日記』(三五館シンシャ)より紹介しよう――。


コールセンター勤務初日 執拗にゴネる客

ついにオペレーターデビューの日が来た。

ただひたすらに緊張しかない。緊張のしすぎで指先が冷たくなっている。やさしいお客ならいいが、怒鳴りつけてくるような人に当たったらどうすればいいのか。できることならコールセンターのどこかに障害が発生して、電話が鳴らないまま1日が終わってほしい。そんなことまで考えてしまう。

障害など発生するわけもなく、業務が始まる。

電話は半分以上が支払い延期の依頼(※1)だった。料金を払わないと利用停止予告が自動的に送付される。それにはこのままだと○月○日に電波がとまると記されている。お客はそれを見ると電話してくる。

※1:「今月の料金が払えないから支払いを待ってくれ」という依頼。コールセンターに勤めて、支払えない人がこんなにも多いのかと実感した。携帯だけでなく、ガス・電気・水道までとめられたという人をときどきテレビで観る。私も貧乏生活ではあるが、幸いにしてどれも止められたことはない。

「手紙が届いたんだけどさ。必ず払うからさ。少し待ってくれ」

利用者の情報を画面に出せば、支払い状況やこれまでの応対内容がわかる。延期の依頼が初めてであれば、オペレーターがその場で3日程度の支払い延期に応ずることができる。その場合は「延期は今回限り」と約束してもらう。

しかし、何度も延期しているような人には断る。だが、ゴネればどうにかできる(※2)ことを知っている人は、執拗(しつよう)に食い下がる。

※2:コールセンターで働いてわかったのはゴネることの大切さだ。ゴネる人は物わかりのいい人よりも得をしている気がする。

「前回延期した際に、今回限りとお約束していただいてますね?」
「それはわかるんだよ。わかるけど頼む。仕事で使ってるんだ。頼むよ」
「本来できないことを前回やったわけですから......」
「わかる。わかるけど頼む。お願い。お願いします」

こんな人はまだいい。中にはしてもらって当たり前という人もいる。

怒鳴られたり脅されたり...利用停止日の悪夢

「払えねえから支払い日を延ばせ」
「今回限りと先月お約束......」
「ガタガタ言ってんじゃねえよ! 10日には払うって言ってんだろ!」
「それでしたらお支払い後の利用再開となり......」
「ふざけんなこの野郎! おめえじゃ話になんねえ! 上に代われ!(※3)」

各グループにはSVと呼ばれるスーパーバイザーが2人ずつ配置されている。この料金センターを運営しているドコモサービス(※4)の正社員もいれば派遣社員もいる。年齢も性別もさまざまだが、SVはこうした難しいお客をあしらうことが仕事だ。SVがお客と1時間以上やり合うことは珍しくなかった。

※3:「上に代われ!」と怒鳴られて、SVを探すが、全員応対中だったことがある。「上の者がみな話し中なので、私で勘弁してください」と頼んだら、「おめえしかいねえのか。しょうがねえなあ」と納得した。変なところで物わかりのいいクレーマーもいる。
※4:ドコモの料金業務や人材派遣業を営んでいたドコモのグループ企業。吸収合併され、現在はドコモCSとなる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中