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女王も容疑者も、そしてヒーローも――オスカー女優ヘレン・ミレンが語る「わが道」のキャリア論【note限定公開記事】

Killer Instinct

2025年10月11日(土)08時35分
H・アラン・スコット(ライター、コメディアン)
ヘレン・ミレン、80歳。現在も映画・テレビの第一線で活躍する姿

アカデミー賞、エミー賞、トニー賞の三冠を達成し、80歳の今も活躍を続けるミレン SAM NORVAL

<『クィーン』で確立した「肖像として演じる」方法論から、年齢とキャリアへの向き合い方まで――ヘレン・ミレン半世紀の仕事術を語る>


▼目次
1.ミレン流キャリア論「計画は立てない」
2.模倣を捨て、肖像を描く――映画『クィーン』から80歳の新章へ
3.私たちは筏(いかだ)に乗って海を漂っているようなもの

1.ミレン流キャリア論「計画は立てない」

1970年、英ロイヤル・シェークスピア劇団の若きスター、ヘレン・ミレン(Helen Mirren)の素顔に迫るドキュメンタリー番組が作られた。

題して『わが道を行く』。当時ミレンは番組について「恥ずかしくて穴があったら入りたい」と述べたが、半世紀を超えるそのキャリアを振り返るにつけ、彼女が自分を貫くことで成功をつかんだのは間違いない。

ミレン(80)は業界のあらゆる常識を破ってきた。

72年には名門劇団で手にした名声を捨てて、前衛演劇に挑戦した。50歳を過ぎて『クィーン(原題:The Queen)』でアカデミー賞、『第一容疑者(原題:Prime Suspect)』でエミー賞を受賞した。2015年には米演劇界最高の栄誉トニー賞にも輝いた。

『わが道を行く』のタイトルは彼女の個性を捉えたばかりか、未来を予言したのだ。

「計画的にキャリアを築いていると思われがちだけど、計画は立てないの」と、ミレンは語る。「でも仕事を選ぶのは私だし、選んだ仕事については責任を取らないとね」

シェークスピア役者としてつかんだ成功の波に乗り、メジャーな映画やテレビの世界に転身するのは簡単だったはずだ。

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若き日には舞台で活躍(『モルフィ公爵夫人』1981年) ROB TAGGARTーCENTRAL PRESSーHULTON ARCHIVE/GETTY IMAGES

しかし彼女はロイヤル・シェークスピア劇団を離れるとイギリスの演出家ピーター・ブルックの前衛劇団に入り、アフリカを巡業した。「華やかな世界を離れ、実験的な劇団で1年活動した。視野を広げたかったから」

そんな直感を信じるやり方が、結局は息の長い俳優人生の秘訣となった。

07年の回想録『イン・ザ・フレーム』には、占い師を訪ねた際のエピソードが書かれている。占い師は23歳のミレンの手相を見て、「あなたは成功する。ただし大きな成功をつかむのは人生の後半、45歳以降になる」と告げた。「全くそのとおりになったわね」と、ミレンは言う。

刑事ドラマ『第一容疑者』(1991〜2006年)の放映が始まったのも、出世作となる映画『クィーン』(2006年)でエリザベス女王を演じたのも45歳を超えてから。一定の年齢を過ぎた女性が冷遇されがちな業界では、稀有なことだ。

「グレタ・ガルボが35歳で引退したのを思うと隔世の感がある」と、ミレン。「最近は多くの女優が35歳を過ぎてからキャリアを開花させる。状況は大きく変わったし、これからも変わるでしょうね」

ステレオタイプを打ち破る高齢者を演じることで、ミレンも変化に貢献してきた。

『RED/レッド』シリーズでアクションを披露し、『ワイルド・スピード(原題:The Fast & Furious)』シリーズでカーチェイスを繰り広げ、『シャザム!〜神々の怒り〜(原題:Shazam! Fury of the Gods)』ではスーパーヒーロー物にも挑戦。

大ヒットシリーズ『イエローストーン(原題:Yellowstone)』の前日譚『1923』にクライムサスペンス『モブランド(原題:MobLand)』と、テレビでも引っ張りだこだ。

「観客に高齢者の顔になじんでもらいたい。年を重ねた人間の顔を見せたいの」と、ミレンは言う。

「若者は高齢者に若い頃があったことがイメージできない。高齢者だって恋やセックスを経験した。いいことも悪いこともやり、酒に酔い、悩み、感情におぼれ、何かを成し遂げた。さまざまな顔を持ち、年を取ってもそれは変わらない」

エリザベス女王、ロシアの女帝エカテリーナにイスラエルのゴルダ・メイア首相ら歴史上の人物を演じ切ることができたのは、そんな人生経験があってこそだ。

2.模倣を捨て、肖像を描く――映画『クィーン』から80歳の新章へ

かつてミレンは「実在の人は演じない。本物には決して勝てないから。どんなに頑張っても、本物のせいぜい65%にしかなれない」と語っていた。

実在の人物をリアルに演じるコツをつかんだのが、『クィーン』だった。ミレンは肖像画を参考に、画家がいかにモデルを描いたのかを探った。

「キャラクターの魂をつかみたくて、探偵みたいに肖像画を観察した。画家はモデルの内面まで見抜くものだから」と、振り返る。

「私は物まねはやらない。私は画家で、これが私の描くエリザベス女王の肖像。私が見たままに描いた、私だけの肖像。そう思うことにしたら吹っ切れた。完全に自由に演じられるようになった」

世間の常識を覆す仕事選びは、今も変わらない。リチャード・オスマンのベストセラー小説を映画化した『木曜殺人クラブ(原題:The Thursday Murder Club)』のアマチュア探偵役もそうだ(ネットフリックスで配信中)。

ネットフリックス『木曜殺人クラブ』予告編

原作ファンの多さを考えるなら、ミレンはヒット確実の人気シリーズを手にしたことになる。80歳でシリーズ物を新たに背負って立つ俳優が、ほかにいるだろうか。

結局のところ、ミレンの人生は占い師のあの予言に集約される。「わが道」を歩む女優に、本誌H・アラン・スコットが話を聞いた。

◇ ◇ ◇


3.私たちは筏(いかだ)に乗って海を漂っているようなもの

──『木曜殺人クラブ』はアマチュア探偵の話だが、実生活でも謎解きは得意?

ええ、たぶん。犯罪心理学にはとても興味があるわ。『デイトライン』(犯罪捜査を扱うリアリティー法律番組)のファンで、夢中になって見ている。とりわけ興味深いのは、普通の人が残虐行為に走ってしまう心理。

◇ ◇ ◇

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【note限定公開記事】女王も容疑者も、そしてヒーローも――オスカー女優ヘレン・ミレンが語る「わが道」のキャリア論


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