最新記事
BOOKS

インド映画はなぜ踊るのか?...『ムトゥ 踊るマハラジャ』の功罪

2025年10月17日(金)11時35分
高倉嘉男(豊橋中央高等学校校長・東京外国語大学非常勤講師)

インド映画の歌と踊りに関してはもうひとつ、それらが「突然」「唐突に」「何の脈絡もなく」差し挟まれるとの批判も受けがちだ。確かに『ムトゥ』には、そう見なされても仕方のないシーンがあった。

たとえば「Thilana Thilana(ティラーナ・ティラーナ)」は、1曲の間に衣装とセットの7変化が楽しめることで有名で、相当な金が掛かっているが、このダンスシーンへの入り方はかなり強引だった。


 

とりあえずどこで使うかまともに計画もせずにやたらとお金を掛けて豪華なダンスシーンを作ってしまい、それを後から本編に入れ込もうと場所を探す中で、件(くだん)の部分に無理に差し挟まれたかのようだった。

だが、インド映画に踊りが「突然」入るというのは、日本におけるインド映画ブームが『ムトゥ』から始まったために起こった一種の不幸な誤解であったといってよい。インド映画の歌と踊りは、決してストーリーと無関係に「突然」差し挟まれるのが通常ではない。

ここでは、多くの日本人が抱きがちな「インド映画にはなぜ踊りが入っているのか」という疑問に答えるために、インド映画に踊りが入る理由を多方面から解き明かすと同時に、それがインド映画を世界の映画から際立たせる優れた特徴であり、映画の質を低めるばかりか高めているということを主張したい。


高倉嘉男(Yoshio Takakura)
1978年、愛知県豊橋市生まれ。東京大学文学部卒。2001年から2013年までインドの首都ニューデリー在住、ジャワーハルラール・ネルー大学(JNU)でヒンディー語博士号取得。インターネットの世界では「アルカカット」として知られ、インド留学日記「これでインディア」やインド映画専門ブログ「Filmsaagar」などを運営。インド映画研究家として2000本以上のインド映画のレビューを発信してきた。インド映画出演歴あり。共著に『新たなるインド映画の世界』(PICK UP PRESS)。2020年から豊橋中央高等学校の校長。2025年から東京外国語大学非常勤講師。

newsweekjp20251007001247.png


 『インド映画はなぜ踊るのか
  高倉嘉男[著]
  作品社[刊]


(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

フィッチ、ハンガリー格付け見通し引き下げ 総選挙控

ビジネス

10月経常収支は2兆8335億円の黒字=財務省

ワールド

中国機の安全阻害との指摘当たらず、今後も冷静かつ毅

ビジネス

バークレイズ、英資産運用大手エブリン買収を検討=関
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中