日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由

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2025年9月23日(火)12時00分
巽 孝之(慶應義塾大学文学部名誉教授、慶應義塾ニューヨーク学院長)

1989年という分岐点

今から40年以上前、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が叫ばれた1980年代には、バブル前夜における日本経済の急成長とは裏腹に、優れた現代日本文学の翻訳家は、質量共に限られていた。

例えば筆者は、84年にフルブライト基金の援助によりコーネル大学大学院で3年間の留学生活を送ったが、同年のウィリアム・ギブスンの長編SF小説『ニューロマンサー』刊行とともに沸き起こったサイバーパンク旋風の中で、86年10月、ギブスンの盟友ルイス・シャイナーから、日本SFの翻訳紹介に協力したいという申し出を受け、第1世代作家の1人である荒巻義雄のニューウェーブ思弁小説「柔らかい時計」(72年)の英訳に関与した経験を持つ。


サイバーパンクは、ハイテクで全地球が電脳化した近未来社会の盲点を突く新しい文学運動であり、荒巻作品はまぎれもなくその先駆けだった。とはいえ当時日本SFを継続的に英訳していたのは、筒井康隆の「佇むひと」などを翻訳したデービッド・ルイスのみ。そこで、「柔らかい時計」については、たまたまコーネル大学大学院で知り合った友人で完璧なバイリンガルのカズコ・ベアレンズにまず翻訳草稿を作ってもらい、それにシャイナーが徹底的な脚色を加え、私自身が最終的に監修するという手順を踏んだ。

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