日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由

GAINED BY TRANSLATION

2025年9月23日(火)12時00分
巽 孝之(慶應義塾大学文学部名誉教授、慶應義塾ニューヨーク学院長)

桐野夏生『OUT(OUT)』

桐野夏生『OUT(OUT)』 VINTAGE(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

よく知られるように、『OUT』の主人公は深夜の東京郊外の弁当工場でベルトコンベヤーの作業ラインを前に分業に従事する女性たち。彼女たちが、ふとしたことから「最後の一線を越える」──つまり殺人から殺人へと次々に手を染めていくのを重視したスナイダーの訳文は、そうした「流れ作業」をthe lineと訳すとともに、殺人を意味する「一線を越える」行為をcross over the lineと表現する。

原著者の日本語原文ではこのアナロジーはとりたてて強調されていないものの、原著者の意図を一層増幅する戦略であるのは疑いない。英訳だからこそ可能になった秀逸な創造的翻訳なのだ。そのぶん英語圏読者は英語小説としての豊饒な読書を約束されたわけで、それによって桐野作品が、同様に連続殺人を扱うパール作品に影響したのかもしれないと思うと痛快ではないか。


今や影響関係は日本側の受容一直線ではない。米小説家カート・ヴォネガットの影響を受けた村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』(94〜95年)のジェイ・ルービンによる英訳(97年)が、息子世代の若手イギリス作家スティーヴン・ホール(75年生まれ)の長編小説『ロールシャッハの鮫』(原著07年、邦訳・角川書店)へ影響を与えるという双方向的作用が、今日のグローバル文学を成立させているのだから。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、米国のイラン介入に備え厳戒態勢=関係筋

ワールド

北朝鮮の金与正氏、ドローン飛来で韓国に調査要求

ワールド

米ミネアポリスで数万人デモ、移民当局職員による女性

ワールド

米、来週にもベネズエラ制裁さらに解除=ベセント氏
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画をネット民冷笑...「本当に痛々しい」
  • 4
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    飛行機内で「マナー最悪」の乗客を撮影...SNS投稿が…
  • 10
    決死の嘘が救ったクリムトの肖像画 ──ナチスの迫害を…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 6
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 7
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 8
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 9
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 10
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中