最新記事
演劇

アジア作品初のトニー賞6冠! ミュージカル『Maybe Happy Ending』に見る韓国コンテンツ世界的ヒットの法則

2025年6月15日(日)15時12分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

クリエイター・コンビが描くユニークな世界

『Maybe Happy Ending』の成功の立役者は、作詞・共同脚本のパク・チョンヒュと作曲のウィル・アロンソンからなるクリエイティブ・チームである。彼らは「ウィルヒュ・コンビ」とも呼ばれ、その協業が作品の普遍的な魅力の源泉となっている。

ウィル・アロンソンは、アメリカ出身の劇作家兼ミュージカル作曲家だ。ハーバード大学で音楽を専攻し、ニューヨーク大学大学院でミュージカル劇作の修士号を取得している。彼は『Maybe Happy Ending』の他にも、パク・チョンヒュとのコンビで『バンジージャンプをする』『イル・テノーレ』『ゴースト・ベーカリー』など多数の韓国ミュージカルの楽曲を手がけているほか、米国では『Pete the Cat』や『Mother, Me & the Monsters』などの作品も発表しており、チャ・ボムソク戯曲賞、フルブライト奨学金、ASCAPフレデリック・ローブ賞、そして4つの韓国ミュージカルアワードなど、数々の栄誉に輝いている。多様な文化背景をもつ彼が、韓国とアメリカの架け橋となり、韓国ミュージカルのグローバル展開に大きく貢献していることがわかる。

一方、パク・チョンヒュは、韓国からアメリカにビジュアルアートを学ぶために渡った経験をもつ作詞家・脚本家である。彼の感性とウィル・アロンソンの作曲が融合することで、『Maybe Happy Ending』の独自の叙情性と普遍的なテーマが確立された。二人の共同作業は、単なる友人関係から始まり、「今すぐ大金を稼ぐより、私たちがしたいことをしようという価値観が似ている」ことから自然に創作パートナーとしての関係性を築いてきたという。彼らは「良い音楽、映画、小説などを一緒に共有しながら討論」することで、互いに芸術的・文化的な影響を与え合ってきたそうだ

彼らの作品世界は、パク・チョンヒュが語る「韓国を背景にしているが、あまり日常的ではない、少し違和感がある情緒」という点に特徴がある。パク・チョンヒュは「韓国を背景にすることがとても重要」だとしつつも、その情緒は「妙にどこか西洋文化と韓国文化が混ざったような感じ」を観客に与える。ウィル・アロンソンもまた「近未来や1930年代、1970年代など、ちょっと変わった背景の話を書くのが好きで、私たちの目標でもある」と述べている。この「身近でない、今の環境とちょっと違うところに行って、結局は今の現実に戻らせる」という手法は、『オズの魔法使い』以来の「身近なものの中に隠された幸せを再発見する」というストーリーテリングの王道だ。近未来の韓国、済州を背景にした『Maybe Happy Ending』、日本による植民地時代の京城を背景にオペラを題材にした『イル・テノーレ』、そして1970年代のソウルを背景にした新作『ゴースト・ベーカリー』が、彼らのこうした創作哲学を体現している

また、二人の「音楽愛」も作品に深く影響している。『Maybe Happy Ending』では、ジャズというジャンルが重要であり、ジャズバンドでの経験があるウィル・アロンソンと、ジャズを愛するパク・チョンヒュの共通の情熱が、主人公オリバーの設定や楽曲に溶け込んだ。特にロックバンド・ブラーのデーモン・アルバーンのソロ曲「Everyday Robots」からインスピレーションを受け、「人間的な話をロボットを主人公にしたらどうかな」というアイデアが生まれたという。これは、ウィル・アロンソンが好む「ミュージカル的にも音楽的にも特別でユニークなジャンルを作り出すこと」にも当てはまり、彼らが単なる音楽だけでなく、物語やキャラクターに観客を引き込む「ユニークな世界」を創造しようとしていることを示している

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミネソタ州に兵士1500人派遣も、国防総省が準備命

ワールド

EUとメルコスルがFTAに署名、25年間にわたる交

ワールド

トランプ氏、各国に10億ドル拠出要求 新国際機関構

ワールド

米政権、ベネズエラ内相と接触 マドゥロ氏拘束前から
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 2
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で国境問題が再燃
  • 3
    DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」も子に受け継がれ、体質や発症リスクに影響 群馬大グループが発表
  • 4
    シャーロット英王女、「カリスマ的な貫禄」を見せつ…
  • 5
    AIがついに人類に「牙をむいた」...中国系組織の「サ…
  • 6
    「リラックス」は体を壊す...ケガを防ぐ「しなやかな…
  • 7
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 8
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 9
    中国ネトウヨが「盗賊」と呼んだ大英博物館に感謝し…
  • 10
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 7
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 8
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 9
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 10
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中