最新記事
吉原

吉原は11年に1度、全焼していた...放火した遊女に科された「定番の刑罰」とは?

2025年2月13日(木)12時25分
永井 義男 (小説家)*PRESIDENT Onlineからの転載

虐待に耐えかね、3人の遊女が放火を決意

弘化2年の放火について、そのいきさつが『藤岡屋日記』に記されている──。

京町二丁目にある川津屋の楼主の女房のおだいは冷酷な性格で、稼ぎの悪い抱え遊女にしばしば折檻をくわえていた。


遊女の玉菊がたまたま腹具合が悪く、用便に手間取ってしまったため、客が帰ってしまった。これを知って、怒ったおだいは塵払(ちりはら)いの棒で玉菊を打ちのめした。

ついに耐え兼ねて、玉菊は朋輩(ほうばい)の姫菊と米浦に相談した。ふたりとも日ごろからおだいの惨忍な仕打ちを恨んでいたため、

「みなで火をつけよう。そうすれば仮宅になる」

と、川津屋に放火することにした。

決行の日、姫菊は体の調子が悪くて寝ていたため、玉菊は米浦を見張りに立てておいて、火鉢の火種を持ち出し、内風呂の軒下に積んであった炭俵と薪に付け火をした。

たちまち火は燃えひろがり、吉原は全焼した。

最年少の姫菊は15歳まで親元あずけに

火事のあと、実行犯の玉菊と見張り役の米浦は火付盗賊改に召し捕られた。

玉菊と米浦が牢屋敷に収監中、火事が発生して火の手が牢屋敷にせまった。いわゆる「切り放ち」がおこなわれ、囚人はすべて解放される。いったん避難したあと、ふたりは所定の時刻と場所に戻ってきた。

弘化3年4月、火付盗賊改水野采女により、玉菊と米浦は切り放ちのあとちゃんと戻ったことから中追放に減刑された。

いっぽうの姫菊は謀議に参加していたとして遠島に処せられたが、15歳までは親元あずけとなった。

また、女房のおだいはその仕打ちが放火を招いたとして、急度(きっと)叱りとなった。

三人の遊女が火あぶりを免れたことについて、つぎのような落首(らくしゅ)が出た。

火付をも助けるものは水野さま深き御慈悲がありて吉原

人々は、三人の遊女が助命されたのは水野采女の慈悲とたたえたのである。なお、川津屋は悪評が広まり、零落したという。


永井義男『図説 吉原事典』(朝日文庫)永井義男『図説 吉原事典』(朝日文庫)(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、公共放送・ラジオ資金削減へ大統領令 偏

ビジネス

英スタンチャート、第1四半期は10%増益 予想上回

ワールド

インドネシアCPI、4月は+1.95% 8カ月ぶり

ビジネス

三菱商事、今期26%減益見込む LNGの価格下落な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中