最新記事
吉原

吉原は11年に1度、全焼していた...放火した遊女に科された「定番の刑罰」とは?

2025年2月13日(木)12時25分
永井 義男 (小説家)*PRESIDENT Onlineからの転載
吉原が11年に1回の割合で全焼したワケ...実はほとんどが遊女の「放火」だった

MYMAPRANG -shutterstock-

<遊廓・吉原は約210年間に18回も全焼した。江戸時代の放火犯には「火あぶり刑」だったが、吉原を焼いた遊女が受ける刑罰はそれとは異なるものだった>

全焼するたびに妓楼が浅草、本所、深川へ「お引越し」。これだけ多くの火災が起きたのは、遊廓特有の事情があったという。

作家・永井義男さんの著書『図説 吉原事典』(朝日文庫)より、一部を紹介する──。


11年に1回のペースで全焼した吉原

吉原は公許の遊廓であり、火事で全焼するなどして営業できなくなった場合、妓楼(ぎろう)が再建されるまでのあいだ、250日とか300日とか期日をかぎって、江戸市中の家屋を借りて臨時営業をすることが許されていた。

これを仮宅(かりたく)といったが、住人の側からすると突然、隣に妓楼が引っ越してくるのと同じである。仮宅ができた地域は一夜にして遊里(ゆうり)に変貌した。

木造家屋が密集していた江戸は火事が頻発したが、吉原もしばしば火事に見舞われた。

明暦3年(1657)に千束村の地で営業を開始して以来、明和5年(1768)4月の火事を皮切りに、幕末の慶応2年(1866)11月の火事まで、合わせて18回も全焼している。

営業を始めてから明治維新までの約210年のあいだ、およそ11年に1回の割合で吉原は全焼した。驚くべき頻度である。そのたびに仮宅となった。

必須のガイドブック『仮宅細見』

仮宅が許されたのは浅草、本所、深川など、もともと岡場所があったり、料理屋が多いなど、歓楽の地だった場所が多い。

妓楼は許可された地区の料理屋、茶屋、商家、民家などを借りた。いちおう妓楼用に改装するとはいえ、にわか造りである。

とうてい本来の妓楼の豪壮さはない。張見世をするところもあれば、しないところもあった。また、張見世をする場合でも清掻(すががき、三味線によるお囃子)はなかった。

仮宅になるとさっそく『仮宅細見』が売り出された。仮宅はあちこちに点在しているため、客にとっては必須のガイドブックだった。

手ぬぐいで頬被りをした細見売りが道のあちこちに立ち、

「仮宅細見の絵図、あらたまりました細見の絵図」

と、声を張りあげ、売りさばいた。

東京アメリカンクラブ
一夜だけ、会員制クラブの扉が開いた──東京アメリカンクラブ「バンケットショーケース」で出会う、理想のパーティー
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ニュージーランド、中銀の新会長にフィンレイ副会長を

ビジネス

中国の安踏体育、プーマ買収検討 アシックスなども関

ワールド

韓国中銀、政策金利据え置き 緩和終了の可能性示唆

ビジネス

トヨタ、10月世界販売2.1%増・生産3.8%増と
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中