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「切断された耳」を這うアリ...鬼才デビッド・リンチの最も「自伝的な映画」に描かれた二面性に迫る

The Oracle

2025年1月30日（木）15時45分
ローラ・ミラー（スレート誌コラムニスト）

こうして無秩序や暴力や腐敗を垣間見ることは、リンチにとって少年時代の幸福を台無しにするものではなかった。むしろ彼の幸福感を深め、確かなものにした。

その後の人生でもリンチは、ボーイスカウトの最高位であるイーグルスカウトとしての誇りを持ち続けながら、深淵をのぞき込むような映画を撮り続けた。


この二面性は苦悩を生むようにも思えるが、リンチは常に軽やかに生きた。毎日のように通ったハンバーガー店のボブズ・ビッグボーイのことを熱心に語ったり、『インランド・エンパイア（Inland Empire）』でのローラ・ダーンの演技をたたえるため、ロサンゼルスの街角で生きた牛を引き連れてPR活動をするといった憎めない行動を取ったりもした。

牛を引き連れてPR活動をするデビッド・リンチ


まるで神官のように、リンチは大地の底から、さらには人間性の深みから立ち上る「気」を吸い込み、神々の声をそのまま伝えた。彼の傑作群はその特異な作風にもかかわらず、いつも1人の人間より大きな力の震えを感じ取ることができた。

だが彼がやったことを成し遂げられたのは、デビッド・リンチという1人の人間だけだった。

©2025 The Slate Group

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