最新記事
箱根駅伝

青学大・原監督と予選落ち大学の選手たちが見せた奇跡...池井戸潤の『俺たちの箱根駅伝』を超える実話

2025年1月1日(水)20時44分
酒井 政人(スポーツライター)*PRESIDENT Onlineからの転載
青学大・原監督と予選落ち大学の選手たちが見せた奇跡...池井戸潤の『俺たちの箱根駅伝』を超える実話

Kazuno William Empson -shutterstock-

<関東学連選抜が最高順位をマークしたのが第84回大会(2008年)。その監督を務めたのが、まだ箱根駅伝で一度も指揮を執った経験がなかった青山学院大の原晋監督だった>

「本を読んで泣いたのは久しぶり」
「人生に挫折しそうな時に読み返したい作品」

今春発行された池井戸潤さんの最新長編『俺たちの箱根駅伝』(上下巻・文藝春秋)が順調に版を重ねている。

正月恒例で高視聴率を誇る箱根駅伝。往路と復路、全10区にわたった選手がたすきをつなぐのは20大学。前年大会10位までのシード校と、予選会で勝ち上がった10校だが、実はもう1チーム出場することができる。

箱根に出られなかった “落選” 大学から選手が寄せ集められる「選抜チーム」だ。

本書では、夢の舞台に臨む「連合チーム」の選手に加え、各校の監督、テレビマンたちの苦悩と奮闘も描いている。胸アツのストーリーを一気読みして、筆者が思い出したのは実際の箱根駅伝で起きた数々のドラマだった。

毎年、取材している箱根駅伝では記事化できなかった分を含め、多くの悲喜こもごものエピソードがある。

例えば、『俺たちの箱根駅伝』で主なストーリーとなる「連合チーム」についてだ。

予選会を突破できなかった大学で編成される選抜チームが本選の箱根駅伝に出場するようになったのは第79回大会(2003年)から。当初は「関東学連選抜」と呼ばれており、翌80回記念大会は関東以外の選手も参加する「日本学連選抜」として出場している。

システムはたびたび変更しているが、選抜チームの最高順位をマークしたのが第84回大会(2008年)だ。当時は本選でシード権獲得となる「10位以内」に入ると、翌年の予選会の通過枠が1増えて11校となるシステムだった。

そのため選手たちのモチベーションも高かった。しかも「関東学連選抜」の監督を務めたのが、それまで箱根駅伝で一度も指揮を執ったことがなかった(本選出場できなかった)青山学院大の原晋監督だ。2015年以降で計7回の優勝を飾る強豪校に成長する、はるか前の話である。

「最低目標は10位。それを達成するためには、みんなの気持ちをひとつにすることが大事です」

原監督は選手たちを鼓舞した。それに応え、選手たちも素晴らしい走りを重ねた。区間賞の獲得はなかったものの、4区久野雅浩(拓殖大)、6区佐藤雄治(平成国際大)、8区井村光孝(関東学院大)と区間2位の走者が3人もいたのだ。

何より印象深かったのは4区の好走を受けた、最長区間の5区。きつい箱根の山上り区間で福山真魚(上武大)が区間3位と好走したのも大きかった。たすきを渡すたびにもともとは所属の全く異なる大学の選手にもかかわらず、走者たちに化学反応が起こったのだ。

上武大勢として初めて箱根路に出場した福山のおかげで9位から4位へと急浮上し、往路を終えた。勢いがついたチームは、翌日、箱根から東京・大手町へと戻る復路で「3位以内」を目指して攻め込む。

目標には届かなかったものの、現在でも「関東学連選抜」における最高順位となる4位でフィニッシュ。絶対的なヒーローがいなかったにもかかわらず、総合力で他の大学関係者も「信じられない」とつぶやいたビッグサプライズをやってのけたのだ。

この年の選抜チームの戦いは今も語り継がれる伝説のレースとなっている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、極端な寒波襲来なら電力不足に陥る恐れ データセ

ビジネス

英金利、「かなり早期に」中立水準に下げるべき=ディ

ビジネス

米国株式市場=S&P4日続落、割高感を警戒 エヌビ

ワールド

ゼレンスキー氏が19日にトルコ訪問、ロシアとの交渉
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中