最新記事
映画

ゾンビのように歩き、激しくセックス...『哀れなるものたち』女優の恐ろしく優れた大胆な演技に感服

Kinky Delight

2024年1月28日(日)16時05分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)
『哀れなるものたち』

性に目覚めたベラは生みの親の元を離れ、ダンカンと旅に出る ©2023 20TH CENTURY STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

<ゴールデングローブ賞をダブル受賞! エマ・ストーン主演、ヨルゴン・ランティモス監督がこだわりを詰め込んだ「フランケンシュタインの女性版」の物語>

ギリシャの映画監督ヨルゴス・ランティモスは、この15年ほどの間に作風の大きく異なる作品をいくつも発表してきた。だがどの作品にも、彼の好む主題が必ず顔を出す。

出世作の『籠の中の乙女』(2009年)は、3人の子供を大きくなっても家の敷地内に閉じ込め、外の世界について嘘を教える横暴な夫婦の物語だ。『ロブスター』(2015年)は寓話的な世界が舞台で、恋愛相手を見つけられなかった独身の成人は、動物に姿を変えられる決まりになっている。

最大のヒット作『女王陛下のお気に入り』(2019年)は、超様式化された歴史ドラマ。陰謀渦巻く18世紀のイギリス宮廷を描く究極のブラックコメディーだ。

さて最新作の『哀れなるものたち』は、スコットランドの作家アラスター・グレイの同題の小説の映画化だ。監督が長年、強迫観念のように抱えてきたテーマ──閉じられたシステムにとらわれる恐怖、とらわれの状態から脱出しようとする個人の、時に自己破壊的な行動、親から受けたトラウマの影響でゆがむ子供の心、そして人体の持つ変身能力──の集大成でもある。

フランケンシュタイン伝説の女性版の物語でもあり、主人公のベラをエマ・ストーンが演じる。私としては、これまで見たランティモス監督作の中で一番(唯一、と言い換えてもいいかもしれない)好きな作品だ。終盤になっても話の筋がまとまらないようなところはあるにせよ。

ゴドウィン・バクスター(ウィレム・デフォー)は19世紀のロンドンを思わせる町に住む醜い科学者だ。彼は胎児の脳を死んだばかりの女性に移植し、蘇生させるという禁断の実験を行い、その結果を観察するために彼女(ベラ)を養女のように育てる。

当初のベラは、体は大人なのに頭の中は赤ちゃんだから、食べ物で遊ぶし、歩き方もよちよち歩きだ。ゴドウィン(ベラからはゴッドと呼ばれる)とその助手の指導の下、ベラの精神は急速に赤ちゃんから子供、そして若者へと成長していく。

ゴドウィンはベラを、自分の思いどおりに染められる真っさらな存在だと思い込んでいた。だがベラが自慰というものを「発見」するや、ゴドウィンは彼女を支配することができなくなる。

そして、ベラが遊び人の弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)と初めてのセックスをした瞬間、画面はメリハリのあるモノクロから官能的なカラーに変わる。ベラは世界を探検すると決意し、ダンカンと一緒に欧州大陸へ旅立つことで自立を果たそうとする。

■モノクロからカラーの世界へ『哀れなるものたち』予告編を見る

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

実質金利は極めて低水準、見通し実現していけば利上げ

ビジネス

国債買入「市場との対話踏まえ決定」と林官房長官、物

ビジネス

日経平均は続伸、米株高・円安が支え 中東情勢への過

ビジネス

米アマゾン、今年は「プライムデー」を4日間に拡大 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 9
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 10
    「そっと触れただけなのに...」客席乗務員から「辱め…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中