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米最大級の贋札事件、犯人は父だった 実話映画『フラッグ・デイ 父を想う日』に見る家族の絆と衝撃のラスト

──カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作。名優ショーン・ペンが構想15年、監督・主演で映画化

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2022年12月16日(金)11時30分
千歳香奈子
ショーン・ペン(前)と娘のディラン

ショーンとディラン、波乱万丈の父娘を実の親子がリアルに演じ切る

<犯罪史に残る贋札事件を起こした容疑者は、娘にとって「最高の世界を見せようとする特別な父」だった。原作者のジェニファー・ヴォーゲルは映画について、「登場人物の短所ではなく、愛し合う父と娘を見て欲しい」と述べる>

ソビエト連邦の崩壊による冷戦後の不況に喘ぎ、湾岸戦争による将来不安を抱えていた90年代前半に、アメリカの犯罪史に残る最大級の贋札事件が起きた。1992年、2200万ドルもの贋札を製造した容疑者ジョン・ヴォ―ゲルが裁判を前に逃亡した。

日本ではあまり知られていない事件だが、アメリカでは未解決の犯罪や行方不明の逃亡者に関するテレビシリーズ『Unsolved Mysteries』で取り上げられたこともある。この前代未聞の事件を名優ショーン・ペンが構想15年、自らが監督・主演を務め、映画化した。

ソーシャルメディアが生活の中心となり、ますます他者との比較が進む今日にも「自分は特別」「重要な存在だ」という思い込みが由来の事件がたびたび見聞きされる。時代は違えど、ジョンにも家族や世間から認められたいという強い承認欲求があった。全米が祝福する星条旗制定記念日である6月14日の「フラッグ・デイ」に生まれたジョンは、「自分は生まれながらにして祝福されている特別な存在で、成功する当然の権利がある」と信じ、その意識に生涯囚われ続けた。

ジャーナリストになった娘が「特別な父」を描く

そんなジョンだが、娘のジェニファーにとっては紛れもなく「特別な父」だった。幼い頃から家族の前に姿を現しては消え、あらゆるトラブルの原因を作り、自分を認めて欲しい時にだけ会い来ると分かっても、だ。

『フラッグ・デイ 父を想う日』は、ジェニファーが05年に発表した回顧録『Flim-Flam Man: The True Story Of My Father's Counterfeit Life』を原作としている。タイトルの「Flim-Flam Man(フリム・フラム・マン)」とはペテン師の男を意味し、ジェニファーから見た父親の偽りの人生を綴った作品だ。

いわく言い難い問題に直面しながらも、その半生を物語に昇華したジェニファーとはどのような人物なのか。問題を抱える両親から独立したジェニファーは、ミネアポリスのシティ・ページズで新聞記者となり、その後はシアトルのザ・ストレンジャー紙で編集長を務めるなどジャーナリストとして活躍の場を見出した。

「スポットライトを浴びるより、(洞窟に生息する)メクラサンショウウオのように影であることを好む」

この時代には珍しくSNSのアカウントを持たないジェニファーは、ミネアポリス・ウィークリー誌への寄稿で自らについてそう述べている。

『ミスティック・リバー』と『ミルク』でアカデミー賞主演男優賞を受賞しているショーンは、監督作7本目にして初主演となった本作で、自由奔放ながらも子供たちを愛し、最高の世界を見せようと努力する不器用で魅力的な父親を好演している。そして、ジェニファーを演じたのは、ショーンの実の娘ディラン・ペンだ。最初に脚本を読んだ時からジェニファー役にディランをイメージしていたと、ショーンはヴァラエティ誌のインタビューで明かしている。

父から熱烈ラブコールを受けたディランが初めて脚本を読んだのは15歳の時。説得に応じて演じるまでに15年もの歳月を要したが、波乱万丈のジェニファーの10年以上に及ぶ人生を見事に演じ切った。矛盾に満ちた父との関係に悩み、時に反発しながらも突き放すことができない想いや葛藤を時代ごとに髪型やメイクを変えることで表現。実の親子だからこそ醸し出せるリアルさ、2人のケミストリーが、この物語をさらなる深みへと導いている。なお、本作には息子ホッパーも弟役で出演している。

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