米最大級の贋札事件、犯人は父だった 実話映画『フラッグ・デイ 父を想う日』に見る家族の絆と衝撃のラスト
PR
注目されないことを身上としてきたジェニファーだが、コンペティション部門に出品されたカンヌ国際映画祭にはショーンやディランと共に出席し、レッドカーペットを歩いている。自身を演じたディランと並んで人生で最も困難な時期の一つを追体験するのは「複雑な感情だった」と記事に綴ったジェニファーは、現実と劇中シーンを客観的に判断するのは難しいものの「この映画が好きだ」と語る。
リアルを追求したショーンは、過去のシーンにARRIのカメラとヴィンテージのレンズを使い、コダック製の16ミリフィルムで撮影。デジタルにはない質感で、70年代から90年代へのアメリカ社会の移り変わりを再現するだけでなく、父娘の絆、幼い頃の記憶をノスタルジックに演出している。
不完全でも信じることを諦めない
「登場人物の短所ではなく、互いに愛し合う父と娘を見て欲しい」と願う原作者の言葉通り、本作では何度も裏切られ、その度に揺さぶられ、それでもなお変わることのない愛情で父と真っすぐ向き合おうとする娘の視点から「家族の絆」とは何かが描かれる。スマホもネットもない時代だったからこそ、父親と過ごした短い時間が忘れられない思い出として心に刻まれ、それがこの物語の核となっている。情報過多の現代にはない時代の良さがあり、だからこそジョンはジェニファーにとって大好きな父親でいられた。
しかし、平凡な日々を見違えるほど驚きの瞬間に変えた父とその父が大好きだった娘を待ち受けるのは、衝撃の結末だ。ラストは観る者の胸に深く突き刺さり、どこでボタンをかけ違えたのか、考えずにはいられなくなる。
インターネットの普及でコミュニケーションのあり方が大きく変わり、誰とでも簡単に繋がれるようになった一方で、いとも容易く人間関係を諦めてしまえる今日。不完全な父と、その父を信じ愛そうとするジェニファーのすれ違いには、観る者に訴えるものがある。本当の家族とは何か、人を愛するとはどういうことか──そんなことを考えるきっかけとなる作品だ。
『フラッグ・デイ 父を想う日』
監督:ショーン・ペン
出演:ショーン・ペン、ディラン・ペン、ジョシュ・ブローリン、ホッパー・ジャック・ペン
脚本:ジェズ・バターワース&ジョン=ヘンリー・バターワース
配給:ショウゲート
公開:12月23日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
公式HP:flagday.jp
(c)2021 VOCO Products, LLC
●執筆:千歳香奈子
北海道・札幌市出身。1992年に渡米し、カリフォルニア州サンタモニカ大学で写真を学ぶ。96年アトランタ五輪の取材アシスタントとして日刊スポーツ新聞社アトランタ支局に勤務。ロサンゼルス支局、東京本社勤務を経て99年よりロサンゼルスを拠点にハリウッドスターら著名人へのインタビューや映画、エンターテイメント情報等を取材、執筆している。日刊スポーツ新聞のサイトにてハリウッド情報や西海岸のトレンドを発信するコラムも寄稿中。著書に『ハリウッド・セレブ』(学研新書)。