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ピカソ作品も炭素排出ゼロへ 温暖化対策に目覚めたアート界「美術館は公共組織、有害ではいけない」

2022年6月20日(月)10時41分
オスロの国立美術館に展示されたムンクの作品

新型コロナウイルスの大流行でフランス最大級の美術館が軒並み休館となった2020年、展覧会の企画や運営にあたるキュレーターたちは、今後の方針についてじっくりと考えるまたとない機会を与えられた。写真はオスロの国立美術館に展示されたムンクの作品。3日撮影。提供写真(2022年 ロイター/Nasjonalmuseet)

「パンデミックが過ぎた後、私たちはどんな世界を生きたいのか」――。新型コロナウイルスの大流行でフランス最大級の美術館が軒並み休館となった2020年、展覧会の企画や運営にあたるキュレーターたちは、今後の方針についてじっくりと考えるまたとない機会を与えられた。

パンデミックは「環境対策を強化するチャンスだ」。パリの著名美術館ポンピドゥ・センターのディレクター、ジュリー・ナルベイ氏は、自身のチームがビデオ会議を重ねてこうした結論に至ったと語る。

ポンピドゥは欧州最多の近代美術作品を収蔵しており、「近代世界の大きな問題に取り組むことは、私たちのDNAにすり込まれている」という。

美術館はコロナ禍を機に、展覧会に伴う温室効果ガス排出の削減に取り組み始めている。セット設営に使う資材のリサイクルや、展覧会の期間長期化、海外からの美術作品の借り入れを減らすことなどだ。

こうした措置は温室効果ガスだけでなくコストの削減にもつながり、美術館にとって一石二鳥と言える。

国際博物館会議(ICOM)によると、パンデミック対策の制限措置で打撃を受けた美術界にとって、コスト削減は欠かせない。化石燃料企業の協賛を得て展覧会が開催されることへの批判をかわす上でも役立つ。

米非政府組織(NGO)、環境・文化パートナーズのサラ・サットン代表によると、美術界はこれまで温室効果ガス対策で他の産業に遅れを取ってきた。「幸い、この世界もついに自分たちが出遅れたことに気付きつつある。つまり、こうした変革がようやく大きな関心を集めている」とサットン氏は語った。

欧米の美術館では過去数年間、二酸化炭素(CO2)計測器の導入や、環境対策に関するコンサルタントや監査の起用など、いくつかの対策が始動した。

サットン氏によると、長年の間、美術館は気候変動への影響が小さ過ぎて対策を打つに値しないという認識が持たれていた。美術ディレクターは気候変動問題を政治と同一視し、資金調達に悪影響が出るのではないかと恐れてきたという。

近場で作品を調達

パリはルーブル美術館、オルセー美術館、ポンピドゥ・センターと、来館者数世界トップクラスの美術館3つを擁する。平年であれば海外からの客を中心に年間数百万人が訪れ、多大な温室効果ガスを生み出す。

海外から飛行機に乗って客が訪れるのを減らすために、美術館にできることはほとんどない。しかしアンディ・ウォーホルやピカソの作品を運ぶための航空便を減らすことは可能だと、EDHECビジネス・スクール(仏リール)のGuergana Guintchevaマーケティング教授は話す。

「1つ1つの作品が空を往復する。そしてキュレーターは出張で少なくとも2往復する」という。

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