最新記事

エンターテインメント

BTSはただのアイドルではない、ARMYは世界規模で「善」を促進する

BTS SAVING THE WORLD?

2022年4月1日(金)16時50分
ムスタファ・バユミ(ニューヨーク市立大学ブルックリン校教授)

むしろ問題は社会的な孤立や経済的不安、長期にわたる孤独などだ。社会的孤立は「既にある怒りや恨みを増幅させ、人々を過激主義に追いやりがち」だと、極右主義分析センターという団体は警告している。

新型コロナウイルスのパンデミックによるロックダウン(都市封鎖)中にいくつもの奇妙な陰謀説が広まったのも、こうした理由によるのだろう。

孤独を抱えている人が、みんな陰謀論や過激思想に走ると言うつもりはない。しかしパンデミックやテクノロジーによって孤立化と細分化がますます進んだ現代の社会には、いくつものリスクが伴う。そして20世紀の偉大な政治哲学者であるハンナ・アーレントは、このことを十分に理解していた。

アーレントは、社会の「競争的な構造とそれに付随する孤独感」がいかに「社会の細分化」を進ませるかを指摘していた。そしてこの細分化の結果、「とりわけ暴力的なナショナリズムが促進され、それに染まった大衆のリーダーが人々を扇動する」のだと。

彼女がこう書いたのは第2次大戦のすぐ後だが、まるでトランプ以後の米共和党の状況を述べているかに見える。

magSR20220401btssavingtheworld-4.jpg

ARMYはBLM運動で募金活動を展開。BTSが100万ドルを寄付すると、25時間で同額を集めた KEN CEDENO-REUTERS

私が言いたいのは、Kポップファンは極右主義者と同様に「カルト的」で「極端」というレッテルを貼られがちだが、彼らのアクティビズムは過激化を止める方向の運動と言えるのではないか、ということだ。

極右の活動家とKポップファンのアクティビストは違う。何といっても、後者は世界の征服ではなく、世界を守ることを目指している。

音楽としてのKポップが俗受けを狙った人工的なもので、グローバル資本主義の生み出したポストモダンな商品であることは確かだ。でも、いいじゃないか。音楽だもの、ノリが良くて何が悪い!

フェミニスト活動家のエマ・ゴールドマンだって、今の時代に生きていれば自分の集会にBTSを招待して演奏させただろう。大衆的な音楽を毛嫌いしていたドイツの哲学者テオドール・アドルノだって、今ならBTSのファンになったかもしれない。

そしてメンバーの中では、きっとJ-HOPE(ジェイ・ホープ)を好きになる。

いつだって、人はHOPE(希望)を選びたいものだから。

Copyright Guardian News & Media Ltd 2022

[お知らせ]
4月5日(火)発売 2022年4月12日号
特集「BTSが愛される理由」
グラミー賞受賞秒読み(?)のBTSは、韓国社会の好む「負け犬がのし上がる」ストーリーに当てはまる独特の存在。韓国の人々の期待も背負いつつ、多くのことを成し遂げてきた今、彼らはどこへ向かうのか/ほか、世界のARMYが語るBTSの魅力......など。
●アマゾン予約はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

AESCのEV電池工場建設、英政府が資金調達支援

ワールド

米国務長官、英外相・独首相と個別に電話会談 印パ関

ワールド

トランプ・メディアがM&Aで事業拡大方針、利益相反

ワールド

シリア暫定大統領、米大統領との会談模索 トランプタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王子との微笑ましい瞬間が拡散
  • 3
    「隠れ糖分」による「うつ」に要注意...男性が女性よりも気を付けなくてはならない理由とは?
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    ロシア艦船用レーダーシステム「ザスロン」に、ウク…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 8
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 9
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 10
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中