最新記事
映画

都市伝説の深い闇の中から、あの殺人鬼『キャンディマン』が帰ってきた

A New, Modern-day Candyman

2021年10月13日(水)18時00分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)
『キャンディマン』

アンソニーは忌まわしい過去への扉を開けてしまう UNIVERSAL PICTURESーSLATE

<恐怖と社会問題を融合させた映画『キャンディマン』を、黒人女性監督が現代版カルトホラーにアップデート>

『キャンディマン』は、右手が鋭利な鉤(かぎ)になった殺人鬼をめぐる都市伝説を題材にした映画。英ホラー作家クライブ・バーカーが、1985年に発表した短編「禁じられた場所」が原案になっている。

92年、最初にバーナード・ローズ監督が映画化したとき、舞台はシカゴの公営住宅カブリーニグリーンに設定された。キャンディマンは黒人俳優のトニー・トッドが演じた。

バーカーの原作では、キャンディマンは名前も人種も特定されておらず、背景も描かれていない。しかし92年の映画では、奴隷の息子の霊という設定。この息子は白人の肖像画を手掛ける画家だったが、雇われた白人家庭の娘を妊娠させたため、リンチに遭って殺され右手を切り落とされた。

人種問題を取り入れたホラー映画は、92年当時は珍しかった。ローズの『キャンディマン』がカルトホラー映画史に重要な地位を占めているのは、それが理由でもある。

だが今、ホラーが社会問題に触れることは普通になった。そこで、黒人女性監督ニア・ダコスタによる新しい『キャンディマン』の出番となる。この映画は92年作品の「精神的な続編」という位置付けだ。

映画は77年のカブリーニグリーンをめぐる謎めいたプロローグの後、現代へ飛ぶ。アーティストのアンソニー(ヤーヤ・アブドゥルマティーン2世)と恋人のブリアンナ(テヨナ・パリス)は、カブリーニグリーンの跡地に立つ高級マンションに暮らす。

ある日、ブリアンナの弟トロイが男性の恋人と一緒に姉たちを訪れ、かつてカブリーニグリーンで起きた悲劇について語る。彼の話はほぼそのまま、92年の映画の粗筋だ。

過去の名作ホラーからの引用も

ダコスタの演出には映画史の引用が目につく。スタンリー・キューブリックが使ったような左右対称の構図が多用され、デービッド・クローネンバーグの『ザ・フライ』を思わせるボディーホラー(身体の極度の変容や破裂する様子を見せる)の場面もある。

そして、鏡の秀逸な使い方だ。都市伝説によればキャンディマンは、誰かが鏡に向かってその名を5回唱えると現れる。アンソニーは時として、鏡の中に自分ではなく、鉤の手をした殺人鬼(今回もトッドが熱演)の姿を見つける。

キャンディマン伝説にとらわれたアンソニーは、カブリーニグリーンの跡地を歩く。そこで出会ったコインランドリー管理人のバーク(コールマン・ドミンゴ)から、都市伝説の裏に隠された悲惨な物語を聞かされる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、オバマケア補助金延長に反対も「何らかの

ワールド

ウクライナ「賠償ローン」、EU諸国格付けに悪影響及

ワールド

ASEANとミャンマーの対話再構築、選挙後も困難=

ビジネス

海運マースク、紅海経由航路の運航再開へ 条件許され
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 8
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中