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日本で「食えている画家」は30~50人だけ 完売画家が考える芸術界の問題点

2021年9月2日(木)06時50分
中島健太(洋画家)
中島健太(洋画家)

撮影:河内 彩


<15年以上のキャリアの中で描いた約700枚の絵を完売させ、その作風は唯一無二と評される洋画家の中島健太氏。「『絵描きは食えない』を変えたい」という彼はこのたび、『完売画家』(CCCメディアハウス)を上梓した。日本の芸術界の現状、業界で生きるために必要なこと、これからの芸術とビジネスの在り方について、赤裸々に綴った本書から「はじめに」を抜粋する>

■はじめに 「絵描きは食えない」を変えたい――700以上のご縁

本書は現役プロ画家の僕が、「日本の芸術界(以下、業界)の現状」「業界で生きるために必要なこと」「これからの芸術とビジネスの在り方」についてまとめたものです。

新型コロナウイルス感染症が流行する前、僕は街にキャンバスを持ち出して、外で絵を描くライブペインティングを行っていました。

「プロ画家が絵を描く姿」を一般の人に見てもらい、芸術の敷居を下げるためです。画家のリアルを見せることで、一人でも多くの人に芸術に関心を持ってもらいたい。本書は、芸術の評論家や美大の教授が書く美術書とは一線を画し、芸術になんとなく興味がある人にも理解できるように、できるだけわかりやすい言葉を選んでいます。

海外で活躍する日本人のアーティストも増える中、僕は国内にとどまり、日本の業界のリアルを内側から目撃し続けてきました。国内で活動する現役画家だからこそ見えている、日本の業界のリアルを綴っています。

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「滑走路に限りなく近い場所」F100号、2009年

「絵描きは食えない」は言いわけ

画家はいまや、絶滅危惧種です。

日本でプロ画家として生計を立てている人は、30人から50人といわれます。

なぜ、これほどまでにプロ画家が少ないのか。

原因は、「業界の構造上の問題」と「刷り込み」です。

本書で詳しくふれますが、業界の構造上、絵が売れたとしても画家の取り分は、たった3割。これでは、いくら頑張って描いても、画家として生計を立てていくのは難しい。僕はそういう業界をなんとか変えたいと模索し、行動に移してきました。 

「刷り込み」もあります。

僕の美大生時代、教授でさえ「絵描きは食えない」と言っていました。

聞いている学生は「絵描きは食えない」と思い込みます。

絵を売るギャラリスト(画商)も「絵描きで食っていくのは難しい」と若手画家を脅かします。

世の中も、「絵描きって食えないんだってね」と言い始めます。

その結果、若手画家は「絵で食えないのは自分のせいじゃない」と考え、教授は「プロの画家が育たないのは自分のせいじゃない」と考え、ギャラリストは「絵が売れないのはギャラリストの営業力のせいではない」と考えるようになる悪循環に陥っているように感じます。

「プロでやるのはどんな仕事も難しい」というだけなのに、業界全体が「画家は食えない」を言い訳に使ってきたと感じます。

人は「できない」と思っているうちはできませんが、「できる」と思った瞬間に脳のセッティングが変わって、できるようになる。「絵描きは食っていける」と思えば、前向きになり、できる方向に向かって歩いていくことができます。

プロになるのは難しさもあるけれど、「成功例」もある。それを僕自身が証明し、業界を目指す人を増やしたい、とこれまでやってきました。

言うまでもなく、お金がすべてではありません。ですが、経済的魅力がない業界は新規参入が滞り、人材が育たず廃れていく傾向にあります。それを変えたいのです。

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