最新記事

韓国映画

不平等、性暴力、金銭問題...韓国映画界の「膿を出し」栄光を支える組織の存在

POWER TO THE DIRECTORS

2021年5月6日(木)18時04分
ヤン ヨンヒ(映画監督)
(左から)クォン・チリン、パク・チャヌク、リュ・スンワン

(左から)クォン・チリン、パク・チャヌク、リュ・スンワンが05年に設立した韓国映画監督組合(DGK)は監督たちを後ろから支える FROM LEFT: YONHAP/AFLO, GISELA SCHOBER/GETTY IMAGES, YONHAP/AFLO

<監督たちを束ねる「DGK」の精力的な活動が、世界を席巻する韓国映画の強さの源になっている>

2019年5月。新作ドキュメンタリー映画『スープとイデオロギー』の編集を韓国で行うと決めソウルに向かった。あれから2年。多くの映画監督に出会い、教えられ、助けられ、まるで人間関係が濃い韓国映画そのものの中にいるようだった。個別の名作だけではなく「韓国映画」全体として世界を席巻する力の裏側には、健全な結束力で突き進む映画監督たちの連帯があった。彼らを束ね、精神的支柱となっているのが韓国映画監督組合(DGK)だ。

DGKは、パク・チャヌク、リュ・スンワン、クォン・チリンの3人の監督が05年に立ち上げた。韓国映画の新時代を切り開いた金字塔的作品『JSA』(00年)を放ったパク・チャヌク監督が初代共同代表の1人であるのは象徴的だ。現在の組合員は400人弱。DGK内の理事会や委員会では、知名度やキャリアに関係なく繰り広げられるフェアな討論で物事が決まる。

前任のポン・ジュノ監督、チェ・ドンフン監督から代表を引き継ぎ、現在の代表を努めているのがミン・ギュドン監督、ユン・ジェギュン監督だ。「DGKのロールモデルはアメリカの映画監督組合(DGA)。最初は親睦団体として始まったDGKだが、権益団体としての機能を充実させようと努力中だ。死ぬ直前まで次作について悩むのが映画監督の本能。脚光を浴びることなく陰鬱に過ごしている監督たちが映画から遠ざからないよう、何かを提供できる団体でありたい。それができてこそ、第2のポン・ジュノも生まれる」と、ミン監督は言う。

現在DGKは、監督が著作権者として認められ、そこから収入を得るシステムをつくろうとしている。ミン監督によれば「日本は韓国より先に映画が発展し、黄金期を経て、監督が著作権者として認められビデオやDVDの売り上げの一部収益を受け取っている。不法ダウンロードが少なく、DVDが売れる数少ない国でもある。韓国は映画をタダで見るのは当たり前みたいな無法状態だったし、創作者の権利を守るという観念がなかった。サブスクリプションが普及して、最近やっと著作権に対する認識が定着し始めた」

独裁政権時代、映画は政府の検閲を通過せねばならず、反共映画や啓蒙映画など国家賛美の作品が多かった。1980年代の民主化闘争を経て表現の自由を獲得した創作者たちは、90年代後半以降、韓国社会と自身のアイデンティティーを問う名作を次々と生み出した。

最近では、政治的な話題(『ザ・キング』『KCIA 南山の部長たち』など)や現在進行形で進む社会問題を競うように映画化する機運が映画界にみなぎっている。「韓国映画と韓国社会は地続き」というメッセージを明確に示していることが観客動員数を伸ばし、ネットフリックスなど配信作品の活況を促し、韓国映画界を活性化させていると言っていい。

例えばコン・ユ主演の『トガニ幼き瞳の告発』(11年)は、聴覚障害者の施設で実際に起きた性的虐待事件を扱った。これが社会的反響を呼び、性犯罪を厳罰化する法改正が実現。映画が国家を動かした。

でも、制作以外のシステムは脆弱だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中