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文字に色を感じる「共感覚」の女性はどんな半生を生きてきたのか

2020年12月18日(金)16時25分
印南敦史(作家、書評家)

失礼ながら、こうして文章だけ読んでいると、混乱しながらもつい微笑んでしまう。ところが当の幼稚園児にとって、それは微笑ましいどころではない大変な問題であったろう。

しかもこの時に限らず、著者は以後も色字共感覚とともに成長していくことになるのだから。

悩みながら生きるより、自分のオリジナリティと考えて前に進む

著者が、自分が共感覚の持ち主であることを知ったのは高校生だった17歳のとき。昼休み、慕っていた「赤い名前をした先生」にそのことを話したところ、先生から「あなた、そういう才能があるのね」という返事が返ってきて驚くことになった。

それまで才能だなんて考えたこともなかったため、素直にうれしく感じたそうだ。

"それだけのこと"と片付けることも可能だろうが、そうした素直な"感じ方"が著者の人生に好影響を与えているように私は感じる。

他の人にはない感覚が自分にはあり、「自分は他人とはちょっと違う」ことを受け入れ、共感覚と無理なく"共存"しているさまが、文章の端々から感じられるからだ。


 共感覚を持っているせいで困ることも多々あるのに、私は自分が共感覚者であることを誇りに思っている。
 理由は単純。
「人と違う」から。
 文字に色が見えるという自分の感覚が共感覚と呼ばれるものであると知った日、確かに私は「人と違う」自分を発見して喜んでいた。

「自分以外の人も文字に色が見えるのか?」
 ということすら考えていなかったときに、この感覚が割と特殊なもので、尚かつきちんとした名称のついているものだと突然判明し、驚きと喜びが生じた。(196ページより)

全ての共感覚者が、このように思えるとは限らない。そんな中、「困ることがある」という事実も含め、共感覚者である自分を受け入れられること、それ自体が大きなポイントだ。

だから読んでいるこちらとしても、「これは大変そうだなぁ」「これは素敵な感覚だなぁ」と純粋に感じることができる。

そしてそれは、共感覚者ならずとも「人とは違う」なにかを持っている全ての人が共有できる、共有すべき感覚ではないだろうか?

「人と違う」と悩みながら生きるより、それを自分のオリジナリティであると考えて前に進むほうが、ずっと有意義なのだから。

著者もそのことに触れている。


 言うまでもなく、みんながみんな同じ人間だったらつまらない。
 もちろん、共通の思考がある人とは会話が成立しやすかったりとか、「人と同じ」ことを通して見えてくるものもあると思うけれど、私は私自身の「人と違う」部分からも見えてくるものがあると考えている。
 その、見えてくるものというのも、みんな「違う」と思う。(197ページより)

なお、付け加えておくと、小学生の頃から「いつか本を書いて出版してみたいなあ」と思っていたという著者の文章力も、本書の持ち味のひとつ。読む側の心をつかむ、魅力的な文章が書ける人だ。


1は赤い。そして世界は緑と青でできている。
 望月菜南子 著
 飛鳥新社

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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。

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