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太田光を変えた5冊──藤村、太宰からヴォネガットまで「笑い」の原点に哲学あり

2020年8月5日(水)16時30分
小暮聡子(本誌記者)

「で、亀井さんが尊敬していたのが島崎藤村なんですよ。初めて読んだ藤村の小説は、『破戒』。高校に入って、ちょうど友達がいなかった時期だった」


『破戒』
 島崎藤村[著]
 新潮社ほか

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太田はこれまでもたびたび、高校時代の3年間を通して一人も友達が出来なかったと語っている。自著『爆笑問題 太田光自伝』(小学館、2001年)によると、いじめられていたわけではなく、入学式の日に誰とも話さず、そのまま友達を作るきっかけをなくしてしまった。同書には、暗い日々の心境が「The Black High School Days」として語られているが、友達と話さない分、太田は本の世界に没頭するという3年間を手に入れた。

「時間をつぶすには本を読むしかなかった。今もそういう子っていると思うんだけど、休み時間というのがどうしていいか分からない。他の子たちが動き回っているときに自分だけ机のところに座っていて、目立っちゃうことが嫌なのね。何にもしていない状態だと時間がもたないので、常にポケットに文庫本を入れていた。本でも読んでないともう、いられない。たまに話しかけられると、うるせぇって拒否する。いま俺、読書中だからって」

最初に読んだ藤村の『破戒』では、長野の被差別部落に生まれた主人公が身分を隠して生きていく悩みが切々と語られていた。

「島崎藤村の作品って、『破戒』はちょっと別なんだけど、長編の『春』『新生』『家』あたりは自分の告白文学というか、私小説なんですよ。だから話が全部つながっているし、どんどん読めた。友達がいなくて一人で悶々と考えているときだったから、あぁ昔こういう人がいたんだ、と。いろんなことで悩んだりするのは別に間違いじゃない、そういう人間がいてもいいんだって、読んでいるときに思えた。だからのめりこんで、藤村は高校生の時に読破した」

太田は藤村の作品を読んで、「仲間のように思えた」という。そこから今度は、亀井勝一郎の親友だったという太宰治の世界に入っていく。当時はどんな小説があるのか知識がないので、作家つながりで読んでいった。亀井勝一郎が太宰治のことを書いていると、興味がわく。藤村を読み終わって太宰に突入すると、太田は両者が「劇的に違う」ことに気付く。

「面白いんですよ、太宰治の文章っていうのは。島崎藤村の地味~な、悶々とどうでもいいようなことに悩んでいるのとは違う。太宰も『晩年』や『人間失格』は私小説的なんだけど、藤村とは違って、もっとかっこいいんだよね。ニヒリズムというか、滅びの美学がある。太宰は嫌らしくて、悩んでいる自分はどうなんだろう、みたいなことを延々と言っている。

悩んでいる自分のことも好きなナルシストなんだけど、俺も当時はそんな気分になっていたから。偽善って何だろうというところからきて、自分ってものすごい醜いんじゃないかとか、汚いんじゃないかとか。そういう風に思っている人が俺より前にいたんだと思った。太宰治を読んでのめりこむ人って大抵、これは俺にしか分からないって思うんじゃないかな。何でこの人は自分の悩みを知ってるんだろう、分かるこの気持ち、と」

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