最新記事

BOOKS

福島第一原発事故は、まだ終わっていない

2020年6月2日(火)16時40分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<2011年3月の東日本大震災直後からイチエフの取材を続けてきた東京新聞記者。その「9年間の記録」には、郷土愛があふれている>

『ふくしま原発作業員日誌――イチエフの真実、9年間の記録』(片山夏子・著、朝日新聞出版)の著者は、中日新聞東京本社(「東京新聞」)の記者。2011年3月11日に東日本大震災が起きたときには、名古屋社会部に所属していたのだという。


 2011年3月11日午後2時46分。東北の三陸沖で、日本の観測史上最大となるマグニチュード9.0の大地震が発生、その30分~1時間後に太平洋沿岸を大津波が襲った。このとき私は名古屋社会部所属で名古屋にいた。ちょうど休みの日で自宅にいたが、直後に携帯と家の電話が同時に鳴った。召集がかかり、すぐに本社へ向かった。(「序章」より)

そののち7月になると著者は東京社会部への異動の辞令を受け、原発班担当に。キャップから「福島第一原発でどんな人が働いているのか。作業員の横顔がわかるように取材してほしい」と打診され、取材方法も切り口も定まらず、取材先のあてもないまま、原発から約2キロ離れたいわき市に向かう。


 どう書けば、彼らの人柄や日常の様子が読者に生き生きと伝わるだろうか。上司と相談しているうちに、一人ひとりの作業員が語った「日誌」という形をとろうと決まった。そして何度か書いているうちに原稿の形が浮かび上がってきた。(「序章」より)

そんな本書は、2011年の"日誌"を紹介した1章からスタートし、2019年の9章まで続いていく。時系列に沿っているからこそ、改めて実感せざるを得ないのは、「まだ何も終わっていない」という絶対的な事実だ。そんなことを意識してか、9章にも「終わらない『福島第一原発事故』」というタイトルが付けられている。

衝撃的だったのは、この章の冒頭に登場する「ハルトさん(35歳)」の項に付けられた「事故当時の中高生がイチエフで働くように」という見出しである。9年も経っているのだから当時の中高生が社会人になっていて当然だが、普段あまり気にすることのない(しかし気にしなければいけない)現実を目の前に突きつけられたような気がしたのだ。


 原発事故から8年。この時期は急に原発や被災地のニュースがたくさん流れて、いろいろ思い出したり考えたりしてつらい。気分が悪くなるので、ニュースは見ないようにする。今年の3・11は、県外に出て重機の資格を取り、次の福島での仕事のために道具を買いそろえた。被災地では、やらなくてはならないことがたくさんある。(413ページより)

ハルトさんが最後にイチエフを離れてから1年半。事故後の累積被ばく線量は、あと数ミリで100mSvに達するという。「生涯線量が300mSvとか400mSvになる猛者もいる」というので驚かずにはいられないが、元請け企業からは「100mSvを超えたら、原発の現場にもう入るな」と言われているのだそうだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

韓国大統領「日本と未来志向の協力模索」、解放80周

ワールド

インド政府が対米関係悪化懸念打ち消し、武器購入方針

ビジネス

中国7月指標、鉱工業生産・小売売上高が減速 予想も

ワールド

ノルウェーの25年の石油・ガス設備投資、過去最高に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化してしまった女性「衝撃の写真」にSNS爆笑「伝説級の事故」
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 5
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 7
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 8
    「デカすぎる」「手のひらの半分以上...」新居で妊婦…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 3
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化してしまった女性「衝撃の写真」にSNS爆笑「伝説級の事故」
  • 4
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 5
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 6
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中