最新記事

解剖学

500年間誰も気づかなかったダビデ像の「目の秘密」【名画の謎を解く】

2019年3月18日(月)15時05分
原島広至

ダビデの背中の筋肉が欠けていることも指摘された

ミケランジェロの彫刻のデジタル化によって、ミケランジェロの作品の「欠陥」とも思える部分が発見された。カレッジ大学病院のマッスィモ・グリサーノ医師とフィレンツェ大学のピエトロ・ベルナベイ教授は、ミケランジェロのダビデ像の3Dデータを検討した結果、ダビデの背中の筋肉が欠けていることを指摘した。

通常、右の肩甲骨と背骨の間は、筋肉によって盛り上がるはずなのに、むしろくぼんでいる(図の青矢印)。

meigabook190318-12.jpg

画像:Shutterstock.com

ここには脊柱起立筋が走り、上層に僧帽筋が存在している。脊柱起立筋は、背骨の左右を縦に走る強力な筋肉のこと。「頚腸肋筋」、「胸腸肋筋」、「腰腸肋筋」、「頭最長筋」、「頚最長筋」、「胸最長筋」、「頭棘筋」、「頚棘筋」、「胸棘筋」といった筋の総称であり、それらが何層にも重なり合っている。脊柱を支え、姿勢を維持するのに大切な筋肉である。

また、僧帽筋は、肩甲骨を安定させ、ひいては上肢全体を支えるのに重要な筋肉である。肩甲骨を背骨に引き寄せると、僧帽筋が働いてこの部分が盛り上がる。この姿勢で僧帽筋をそれほど緊張させていないにしても、もっとふくらんでいてもよいはず。

meigabook190318-13.jpg

画像:Shutterstock.com

実は、背中の欠陥をミケランジェロも気づいていて、「材料(つまり大理石)が足りない」と手紙に書いていた。筋肉を盛りたくても、素材となった巨大な大理石に問題があったのだ。

「何百年も前に描かれた絵画は研究家たちによって調べ尽くされているので、今さら発見できることなど何もない」とは考えず、巨匠たちの作品をじっくりと観察してみよう。もしかしたらあなたも、絵画に関する大発見ができるかもしれない。

描かれてから数百年間も気づかれなかった事実を、現代の研究家が次々と発見しており、本書『名画と解剖学』ではそうした新事実を幾つか紹介している。

・サージェントの『マダムX〈ピエール・ゴートロー夫人〉』は鎖骨が現れるはずの場所に凹凸がないのはなぜか?

・『ネフェルティティの胸像』の優美な長い首のラインと、しわ取りボトックス注射の関係とは?

・ミケランジェロはなぜ『デルフォイの巫女』などの作品の口もとに1本多く歯を描いたのか?

・『手の洞窟』を見ると古代人の右利き・左利き率がわかる?

・モロー、ルーベンスなどプロメテウスを描いた画家は多いが、ついばまれる肝臓の位置を正しく把握していたのは誰か?

といったエピソードだ。絵画の身体に潜む謎解きにぜひ挑戦していただきたい。

【名画の謎を解く】
※第1回:北斎は幽霊っぽさを出すために子供の頭蓋骨を使った
※第2回:モデルの乳がんを、レンブラントは意図せず描いた


名画と解剖学――『マダムX』にはなぜ鎖骨がないのか?
 原島広至 著
 CCCメディアハウス

meigabook190318-page6-b.jpg

『名画と解剖学――『マダムX』にはなぜ鎖骨がないのか?』98~99ページ

meigabook190318-page7-b.jpg

『名画と解剖学――『マダムX』にはなぜ鎖骨がないのか?』100~101ページ

ニューズウィーク日本版 健康長寿の筋トレ入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月2日号(8月26日発売)は「健康長寿の筋トレ入門」特集。なかやまきんに君直伝レッスン/1日5分のエキセントリック運動

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ドイツの洋上風力発電事業、中国製タービン取りやめ国

ビジネス

独ポルシェ、傘下セルフォースでのバッテリー製造計画

ビジネス

米テスラ、自動運転死傷事故で6000万ドルの和解案

ビジネス

企業向けサービス価格7月は+2.9%に減速 24年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中