最新記事

宗教学

亡くなった人の気配を感じたら......食べて、寝て、遊べばいい

2018年8月13日(月)14時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

やや余談めきますが、修行の際は、睡眠時間を減らすのが常道です。そして、心身ともに、疲労困憊(こんぱい)の状態に、あえて人工的に追い込んでいきます。なぜなら、そういう状態でこそ、神秘的な体験が得られやすいからです。元気で、ぴんぴんしているときには、神秘的な体験はほとんど起こりません。

この点からすると、親しかった人を亡くして、睡眠不足になっているときは、通常では起こりえない体験が起こりやすいことがわかります。亡くなった人の気配を感じるというのも、今述べたことと無縁ではありません。

修行の場合は、自ら求めて、そういう特殊な状態を作り出すのですが、親しかった人を亡くして、睡眠不足になっているのは、自ら求めて、そうなったわけではありません。むしろ、そうなってほしくはないのに、結果的にそうなってしまっているのです。この差は、決定的です。

もちろん、ひとくちに亡くなった人の気配といっても、さまざまです。感じられて良かったということもあれば、ゾッとしてしまって、恐怖のあまり、パニックになりそうなこともあるはずです。

そのどちらでも、大切なのは冷静に対処することです。喜びすぎず、怖がりすぎず、つとめて冷静にふるまってください。性急に判断するのは、禁物です。

そもそも、気配を感じてしまう原因の多くは、ここまで述べてきたとおり、尋常ではない精神状態にあります。ですから、まずは精神状態を尋常に戻すことが求められます。精神状態を尋常に戻すためには、身体の状態を尋常に戻す必要があります。身体の状態を尋常に戻すためには、食べて、寝て、遊ぶことです。思いつめるのは、最悪です。

もっとも、食べて、寝て、遊ぶといっても、なにしろ尋常ではない精神状態では、なかなか実行できません。そういうときは、「食べる→寝る→遊ぶ」という順番を、「遊ぶ→食べる→寝る」、もしくは「遊ぶ→寝る→食べる」に変えます。

こんな気持ちのときに、遊んでなんていられない、と思うかもしれませんが、こういうときにこそ、人は遊ばなければいけません。度を過ぎなければ、お酒を飲むのも、有効な手です。

こうして、精神状態が尋常に近いところまで戻ったら、そのとき、あらためて、亡くなった人の気配を感じたときのことを、思い出してください。そうすれば、冷静に、気配の意味や本質を判断できると思います。

まだ思い出したくないのであれば、無理をすることはありません。思い出したくなるまで、いくらでも待ってください。あせることはありません。

待っているうちに、忘れてしまっても、全然かまいません。忘れてしまうということは、その程度のことだったという証拠ですから、気に病むことはないのです。

※第2回:死後世界も霊魂もないなら何をしてもいい──を実行した人がいた


しししのはなし
 ――宗教学者がこたえる 死にまつわる〈44+1〉の質問』
 正木 晃・著
 クリハラタカシ・絵
 CCCメディアハウス

ニューズウィーク日本版 健康長寿の筋トレ入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月2日号(8月26日発売)は「健康長寿の筋トレ入門」特集。なかやまきんに君直伝レッスン/1日5分のエキセントリック運動

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国当局、国有企業にチベットへの産業支援強化求める

ワールド

トランプ氏に解任権限なし、辞任するつもりはない=ク

ワールド

ラセンウジバエのヒトへの寄生、米で初確認 情報開示

ビジネス

午前の日経平均は反落、FRB理事解任発表後の円高を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中